香りを商品の魅力にしたり、販売促進やブランディングに利用したり。香りを活用する動きがどんどん広がっています。過去のトレンドキーワードでは、食感、色、温度、香り、音、それぞれに特徴を持たせた商品を求める傾向を[五感消費]というキーワードで紹介。また[香感食品][香楽食品]など香りに特化したキーワードを挙げた年もあり、両方を合わせると、2007年からなんと11回登場しています。[癒やしニーズ]が強まったときに多く、香りが精神の安定に強く結びついていることが分かります。
過去のトレンドキーワードを見返して興味深かったのは、10年の講演内容。次のような話しをしています。「香りの演出が、商品の販促やブランドの印象付けに有効であることに気付き、積極的に利用している企業が増えています。商品やサービスを売り込むには味や機能性だけでなく、感性や感情に訴える戦略も必要で、香りは有効な手段になります」とし、杏林大学医学部の古賀義彦教授の“嗅覚中枢は、記憶や情緒をつかさどる部位と同じ場所に存在するため、印象に残りやすい”という解説と、本屋に行くとトイレに行きたくなる人が多いこと、かつて付き合った人と同じ匂いを嗅ぐと、その人のことを鮮明に思い出すことなどの例を挙げています。また[香り活用]が広がる背景について、米P&G社の柔軟剤ダウニーが、日本においてあっという間に市場を広げた例を挙げ、「日本人はもともと、強いにおいが苦手な人が多かったのが、近年は、快適なにおいなら進んで求める人が増え、特に若い世代に、従来よりも強い香りが好まれる傾向がある」とし、「感覚の中でも嗅覚は味覚への影響が大きく、今後、メニュー開発や商品開発の重要なファクターになると考えられます」と締めくくっています。
20年には、味わいや風味の8割は香り、しかも鼻から吸い込む香りではなく、のどの奥から鼻に抜ける香り“レトロネーザル(口腔香気)”によるところが大きいと言われ始め、香りと味覚の関係性に着目。香りを楽しむことをコンセプトにした商品開発やメニュー開発が増えました。
投稿者: himeko company
過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-4
(前号に続く)
その国の食は、地理・地形、気候、歴史、宗教、経済など人間を取り巻くすべての要素から形成される広義の風土と、それに大きく影響される人間の心情によって形成されます。[和味]は、言い換えれば日本の風土と日本人そのもの。それを表したキーワードが、2022、23年に登場した[日本テロワール]です。
テロワールとは、もともとは“土地”を意味するフランス語から派生した、ワインやコーヒー、お茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指す言葉で、ワインを表現するときによく使われます。同じ地域の農地は、土壌、気候、地形、農業技術が共通するため、作物にその土地特有の性格を与えるという意味もあります。
22年、サステナブルへの関心が高まり、産地や生育環境などを明確にした商品が増えました。作り手のこだわりや技術、産地の特性をより濃く表現したことで、地ビールがクラフトビールへと深化したように、その土地が醸す空気感、土壌の特徴、生活文化といったそれぞれの個性に重きが置かれ、単に「国産」と表示されたものとは異なるストーリーが、生活者の心に響きました。「日比谷OKUROJI」には、“新しい日本のカクテル文化の確立”を目指すバー「FOLKLORE」がオープン。“日本のカクテル”とは、日本の酒と生産地の土壌や文化を指す“テロワール”をカクテルに反映したものではないかと考え、日本酒や焼酎、国産スピリッツのほか、日本のお茶や器を採用し、各地のテロワールを取り入れながら、洋酒とブレンドするなどした新たなカクテルの提供を始めました。
23年、ウクライナ危機を契機に、食品だけでなく肥料や飼料までもが海外に依存していることの危うさを、日本国民の誰もが身を以って感じたこの年、国産品を育成し、増やしていこうという機運が高まり、[日本テロワール]は、国産主義のひとつの動きとして多方面で盛り上がりを見せました。
今回、[和味]に関連するトレンドキーワードを振り返り、それが、20年を超える時の流れを感じさせないほどみずみずしく、生っぽいことに、私自身、驚いています。日本の食の原点が、風土と国民性に大きく根ざしている証かもしれません。ともあれ、[和味]はさまざまな適応性を見せながら、これからも世界中に拡散し、浸透していくのかもしれませんね。
過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-3
(前号に続く)
今年のトレンドキーワードのひとつ、[和味]。その魅力は時に、海外から教えられることも少なくありません。
「寿司・刺身」「天ぷら」「うなぎ」「焼鳥」など、今では世界スタンダードになっている和食。2014年、日本酒や和菓子はもちろん、“弁当”というスタイルまでもが海外において独自に進化。いずれ日本に逆輸入されるかもしれない和味を、[新和食]というキーワードで紹介しています。例えば、米国・NYでは、ユダヤの伝統料理に和食の要素を加えた斬新な創作料理店がオープン。ユダヤ人シェフと日本人シェフが作る創作料理と日本酒の組み合わせが人気になりました。フランス・パリの高級ホテルでは、前菜、主菜、デザートのコース料理を重箱のような黒い弁当箱スタイルで提供。パリっ子たちの評判を呼びました。15年、世界的[和食人気]は深化を伴いながら拡散。料理そのものではなく、日本の食の繊細さ、芸術性、理に適った奥深さに惹かれる外国人が増え、和食に対する評価はゆるぎないものになったのです。
この2年間で印象深いのは、14年に[UMAMI]、15年に[だしブーム]というキーワードが登場したことです。ヘルシー志向を受けてバターやクリームの使用を控えるムードが料理界で高まる中、ジョエル・ロブションやフェラン・アドリアなど先鋭的なシェフが鰹節や昆布のうま味で素材の持ち味を引き出す調理法を探求。だしとうま味の存在が、世界で認知され始めました。
そして日本では。鰹節ならぬ“鴨節”や“鶏節“、貝だしなど新しいだしの世界が広がり、若者の間でだしが注目されました。冷えただしをつまみに日本酒を味わうバーや、昆布だしがベースのスープが楽しめるスープスタンドが登場。顆粒タイプのだしの味で育った若者にとって、丁寧に引かれただしの味は生まれて初めて出合う驚きの味だったようで、若者が日本伝統のだしのおいしさを再発見したことがブームの源泉になっていました。(次号に続く)
過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-2
(前号に続く)
今年の[和味]スイーツの特徴は、なぜか“みたらし”。チーズタルトやマドレーヌ、フィナンシェなどフランス菓子にみたらしを合わせた“和洋折衷スイーツ”が目立ちます。
洋のスイーツに、酢やしょうゆ、みそといった和の調味料が使われ始めたのは、2000年代中頃から。私は、煮物に調味料を加える順番“さ(砂糖)、し(塩)、す(酢)、せ(しょうゆ)、そ(みそ)”になぞえて[さしすせそイーツ]というキーワードを付けました。04~05年にかけて酢ブームが起こったとき、酢を使ったスイーツ[酢イーツ]が登場。07年には塩ブームが起こり、スイーツに塩をアレンジした“塩キャラメル”“塩プリン”など[甘じょっぱ系スイーツ]が人気になりました。08~09年にかけては、しょうゆを使ったスイーツが続々と登場。そして09年には、みそやウスターソースを使ったスイーツが現われました。10年は、酒粕を使ったケーキやトリュフチョコレート、ベーグルなどが誕生し、ちょっとした“酒粕スイーツ”ブームが来ています。
因みに、08年は若い男性の“甘党化”が進んだ年。私は[甘党オトコ]というキーワードを付けました。“男が、甘いもの?癒やされたい?”の昭和の固定観念が一変。職場で菓子を食べることに抵抗がなくなり、ボトル入りのチョコで疲れを癒やしたり、リッチなプリンを自分ご褒美にしたりする若年層の男性が急増。コンビニ各社も、男性向けスイーツ商品の開発に力を入れました。10年になると、昼休みや仕事帰りに、デパ地下で和菓子を買い求めるビジネスマンの姿が目立つように。コンビニでも、帰宅途中に和菓子を購入する若い男性客が増え、[和菓子回帰]が起こります。理由は、[保守消費]。“パティシエ・バブル”がはじけ、おしゃれで分かりづらい高価なスイーツよりも、団子や饅頭といった昔ながらの分かりやすくて安価な和菓子がいいとなったのです。
そして東日本大震災の翌12年。[癒やしニーズ]が一層強くなり、[neo和菓子ブーム]がキーワードに。定番の和菓子に加え、そこに洋風のアレンジが加えられたり、定番同士を掛け合わせて新しい和菓子が提案されたり。安価な和菓子に“意外性と驚き”という要素が求められ、“定番+α”の[neo和菓子]が注目されました。(次号に続く)
過去にも登場した今年のトレンドキーワード-3[和 味]-1
3回目は[和味]。弊社のトレンド相関図では、これに関連するキーワードが2003年から登場しています。日本の風土に根付き、海外での評価も高まる一方の“和の世界”。4回にわたり紹介したいと思います。奥深いが故のことと、ご容赦ください。
和の要素がポイントになり魅力が増す“折衷料理”や、和の味そのものを深化させた料理など、日本の食の伝統的な文化や風味、日本テロワールを感じさせる[和味]の世界が広がっています。最近では、ペルーで日系人の飲食店が提供してきた、みそやうま味調味料といった隠し味、高い調理技術が評価され、「ニッケイ料理」への関心が高まっています。米国では、ごま油や、みそなどの発酵食品を使った“UMAMIカクテル”が人気に。フランスでは、パリ・ブレストやモンブランのような見た目の“進化系どら焼き”が登場しています。
一方、日本においては、だしや和の調味料を加えたカレーや麻辣湯の専門店がオープンしたり、ホテルのレストランが、発酵、乾燥、塩蔵といった伝統的な技法で生まれた日本の保存食を米国の料理に組み合わせたディナーコース“UMAMI FUSION”を企画したり。チーズタルトやマドレーヌ、フィナンシェなどフランス菓子に“みたらし”を合わせた、“和洋折衷スイーツ”も目立ちます。
洋のスイーツに[和味]を加えたデザートを[創作和スイーツ]というキーワードで最初に紹介したのは03年。背景には、[和カフェ]ブームがありました。抹茶や煎茶と一緒に提供されたのが、栗の甘露煮を添えた“和風パンナコッタ”や“和風クリームブリュレ”。京都ロイヤルホテル(当時)では、伏見の銘酒と西京みそを使ったムースに丹波産の小豆をトッピングした洋菓子“京三昧”が顧客を惹き付けました。
次は07年、キーワードは[和テイスト]。日本ケンタッキー・フライド・チキンが、焼き海苔とごまをまぶし、しょうがじょうゆで味付けした“香り揚げ醤油チキン”や“湯葉と野菜のスープ”を、ロッテリアが“もみじおろしバーガー”を、ベッカーズ(当時)が“つくねバーガー”を発売するなど、ファストフード各社は和の味わいを生かしたメニューを強化しました。またタリーズコーヒージャパンが、抹茶系ドリンクと相性がよい和デニッシュを導入。有名パティスリーでは、山椒風味のパンナコッタやわさびを入れたほろ苦い抹茶ムースが、片や老舗の和菓子店では、梅酒や八ツ橋を加えたソフトクリームが人気でした。(次号に続く)
過去にも登場した今年のトレンドキーワード-2[ボタニカル]
2回目は、[ボタニカル]。最近は、[ボタニカル]と言えばジン。ジンは、ジュニパーベリー(杜松の実)の香りを主体とし、草根木皮(ボタニカル)で風味付けした蒸留酒。クラシックとしては、オレンジピールやレモンピール、アンジェリカやシナモン、コリアンダーシードやクローブ、ナツメグなどのスパイスが、ジャパニーズとしては、ゆずなどの柑橘類、山椒や緑茶、クロモジ、スギ、ヒノキなどの木が使われるなどアルコール類の中でもかなり自由度が高く、だからこそ、さまざまなクラフト系が生まれていて、最近では数限りないという印象です。
ジン関連以外で[ボタニカル]が初めてキーワードとして挙がったのは、2020年。花や木、竹や炭、染料の藍も食品に使われ、香りや色など五感を満足させるアイテムとして人気になりました。特に、当時手頃な価格になった“食用バラ”は、彩りが華やかでSNS映えするだけでなく、甘い香りが料理やドリンクを引き立てると注目され、食材として活用する動きが広がりました。
一方、[ヘルシー志向]を背景に、木や竹、炭や藍を食材に使ったスイーツやフードもたくさん登場しました。特にスギや竹のパウダーを使った商品は、「想像以上に香りがして、しかもおいしい」と好評でしたし、藍粉をふんだんに使用したフレンチコースを提供するレストランも話題になりました。
21年には、新型コロナ禍を背景にナチュラル志向が強まる中、ストレスを抱える生活者のニーズは、リラックスできるとしてスギやヒノキのアロマ効果に集中。植物の持つ力への関心が高まり、再び[ボタニカル]がブームになりました。間伐材のスギや枝落とししたヒノキを素材にしたケーキ、放置竹林の竹や笹を使用した和菓子などもSDGsと絡めて話題になりました。
23年には、世界遺産“高野山”の木の香りが口中に広がる無糖炭酸水「高野六木炭酸」が発売されました。“高野六木”とは、高野山の寺院や伽藍の建築や修繕のため大切に育てられてきたスギ、ヒノキ、モミ、ツガ、アカマツ、コウヤマキの6つの木の総称で、高野山の“宗教と自然”の密接な繋がりを語るうえで欠かせない象徴です。
神羅万象に神が宿る日本において、[ヘルシー志向]と[癒やしニーズ]が高まるとき、[ボタニカル]は今後も繰り返しキーワードとして登場するでしょう
過去にも登場した今年のトレンドキーワード-1[漢方・薬膳]
[2026年 食市場のトレンド]講演に向けて、相関図や原稿を作成中です。昨年のトレンドキーワードは2017年とよく似ていて、17年を始まりとしたトレンドが、25年になってそのカタチが定着していると考えました。今年のトレンドの特徴も、過去に挙がったキーワードが再び登場していること。そんなキーワードについて、今回から連続して解説したいと思います。
初回は、[漢方・薬膳]。サントリー食品インターナショナルが、薬膳専門の新ブランド“薬膳好日”を立ち上げ、シリーズ第1弾としてペットボトル入り飲料“ジンジャー&ソーダ”を発売したり、身体を温め、血行をよくし、冷え性や月経トラブルに効果があるとされ、古くから日本人に親しまれている薬草“よもぎ”を発酵させて今風のドリンクに変身させた「THE YOMOGI STAND」が東京・代官山にオープンしたり。[漢方・薬膳]が、またまた今風のスタイルで登場しています。
過去には05年、株価が当時の過去最高額を記録する前年、薬膳フレンチや薬膳カレー、薬膳パフェなど、おしゃれでプチ贅沢な薬膳メニューが、上昇景気に乗って登場しました。次は13年。かつては薬膳特有の苦味を苦手とする生活者が多かったのが、その苦さが身体によさそうだと本物の味を求める傾向が強くなったのに加え、スタイリッシュな漢方ブティックやおしゃれな薬膳カフェが続々とオープンしたことで、“薬膳=ファッショナブル”というイメージが生まれました。さらなる追い風は、韓流ブーム。“参鶏湯”に代表される本格的な韓国の薬膳料理を口にする機会が増え、生活者は薬膳のおいしさを知りました。また、クコの実を入れればアンチエイジングに、ナツメを使えば疲労回復に役立つなど、効能が分かりやすいことも魅力に。手軽に美と健康を手に入れたい女性はもちろん、うんちく好きな男性をも惹き付けました。
そして21年。新型コロナ禍で、免疫力を高めるための効果的な手段として[漢方・薬膳]が注目されました。ホテルのレストランや飲食店が相次いで 漢方・薬膳メニューを打ち出し、外食を控える生活者に向けてデリバリー・テイクアウトの薬膳スープ専門店が登場。家庭で作れる薬膳レシピのサイトが立ち上がりました。
コンロとオーブンの取り換えで
年の瀬、私の一大決心は、コンロとオーブンの取り換え。昨年手に入れた家のコンロはオーブン一体型で、火力がとにかく弱い。フランス製のため日本の安全基準を満たす目的で敢えて火力を弱く調整されているとか。でもでも、ルックスはビンテージ感満載、白一色でとっても素敵。白いタイル貼りのキッチンにぴったりなのです。10ヵ月悩んで、“新年はストレスがない料理をしよう!”と交換するに至りました。
まずは商品探しから。私の場合、コンロの最重要ポイントは火力。一般のコンロよりも火力が強い商品はグリルが付いていない機種があり、連動して排気口もないため、コンロの下にオーブンを付けられない。火力が強くて排気口があるコンロは、サイズが合わない。火力は普通でいいとあきらめて、ならばキッチンに合うテイストの商品がないかとメーカーのパンフレットを精見してもない。ならば仕方ない、後学のため“最高機種”とやらを試してみようと、またまたコンセプトを変更。ガス会社に見積りを出していただいたその夜、ネットで白いコンロを発見。しかもトップはホーローで今のキッチンにぴったり。さらにフツーのコンロだから、価格は雲泥の差。メーカーがネットでのみ販売している商品で、カタログにも載っていないし、法人には販売しないとのこと。どんな意図があるのかは分かりませんが、ここに辿り着くまでの時間と労力を考えると、カタログに載せて“ネット注文のみ”と明記すればいいのではと憤りすら覚えます。
オーブンは小学生の頃から使い慣れている機種一択。色を選ぶ余地はありません。近年、コンロやオーブンの色は、黒色に傾倒しているとか。汚れが目立たず、男性ウケがいいからなのだそう。
クリスマスイブ、取り換えが終了しました。コンロはキッチンの雰囲気にしっかり溶け込んで、そのせいか、下のオーブンも違和感なく。ただ下の子はよくしゃべる。“シャラップ!(音声切り)モード”を選択して解決したものの、使う度に、自動と手動を選ばないと働かない。オーブンのクセ、立ち上がりまでの時間、火力の程度など、情報を集めて“私のオーブン”にしていくのが楽しみなのだから、自動機能は要らないのです。コンロにしても、高機種は鍋を外すと安全装置が働いて弱火になってしまいます。卵焼きや炒め物など、ちょっと火元から外したいときにはイラッとすることも。
要らない機能をすべて外して安価にしろよと毒づく一方、使ってみれば案外ラクかもと流れそうになり、いやいや頭と勘が大切なのだと背筋を伸ばし。小さな意地とテクノロジーの間で揺らぐお年頃です。
2026年のキーワードは「自分ファースト」
2026年が始まりました。今年も、なんとなく不安な気持ちでお正月を迎えました。不安感は、年々強くなっているように思います。
昨年1月、下水道管の腐食が原因で道路が陥没。日本の生活インフラに対する不安が広がりました。「令和の米騒動」と酷暑による野菜価格の高騰は家計を圧迫し、秋に入るとクマの被害。自然環境の変化と空き家問題という無関係に思えるふたつの事柄がクマと人間の共存を難しくしているようです。そして日本初の女性総理大臣の誕生。何やら隣国はご立腹のようですが、生活者の不安感を増長させることにならなければよいと祈るばかりです。
そこで、“2026年 食のトレンド予想”の決定に当たり、私は昨年同様、「身体と心の健康」と「癒やしニーズ」を柱に、「自分ファースト」を1位に挙げました。自分にとって最も重要なことは、“我が身の健康”と“我が心の平穏”。“健康は富に勝る”という格言通り、健康を維持することは、何にも勝る節約術です。そして、「癒やしニーズ」の強まりと共に最近再びよく聞かれるようになったキャッチフレーズが「自分ご褒美」。ひとときの安らぎと幸福感をもたらしてくれる食への期待は、ますます高まっています。
「ヘルシー志向」を反映するキーワードとして「予防食」「漢方・薬膳」「コスパ栄養」「おやつ食」などを、「癒やしニーズ」のそれとして「ご褒美ウェルビーイング」「思考キャンセル界隈」「リカバリー消費」「逆タイパ志向」などを挙げました。また「地球沸騰化」によって生まれた「汗活」「ぬる温活」「耐暑食品」、活気づく「Wシニア市場」からは「エンジョイシニア」や「ハイシニア向け食品」などのキーワードが登場しています。
2/18の“スーパーマーケットトレードショー”を皮切りに、今年もさまざまな会場で「2026年 食市場のトレンド」講演をいたします。ぜひ、最新の情報を聞きにいらしてください。もちろん、「食のトレンド情報Excel版」法人会員の皆様には、貴社に伺って講演をさせていただきます。皆様にお会いできますことを楽しみにしています。
新巻鮭、私の今昔物語
スーパーのお歳暮コーナーに“新巻鮭”の文字が。冷蔵・冷凍状態での保存や輸送は当たり前、核家族化が進む現在、塩に漬けられた鮭丸ごと1尾をいただいて喜ぶ生活者はいるのだろうかと足が向きました。私の“それ”の印象は決してよいものではなく、子どもの頃、“それ”が私の部屋に吊り下げられたことが。海のある温暖な土地で生まれ育った母にとっては、「これはどうしたものか」の贈答品。冷蔵庫に入らないため、比較的温度が低い部屋に吊るしておけばいいとでも思ったのでしょう。怖い顔をした銀色に光る“それ”からは、脂は落ちるは生臭さは発せられるはで、さすがに閉口しました。
ところが、スーパーの陳列用冷蔵庫に納まっている新巻鮭は、塩を纏わぬすっきりとした出で立ち。私の印象とはまったく違うものです。秋に獲れた鮭に粗塩をすり込み、塩漬けにした後、北国の冷たい風にさらして干したもの―。これが私の“それ”に関する知識のすべてですが、近年の新巻鮭は作り方のベースは変わらないものの、やはり昨今のギフトに相応しいカタチに変化しているようです。
まず腹をさばいて内臓を取り出し、全体にまんべんなく塩をまぶして漬け、うま味を凝縮させます。昔は、鮭と塩を交互に積んで重石をかける「山漬け」製法が主流だったようですが、今は、生活者の減塩志向に合わせて塩分濃度を調整した塩水に漬け込むのが主流。手間がかかる「山漬け」は高級品とか。その後、昔は水洗いして塩を落とし、寒風にさらしてじっくりと干すことで独特のうま味が熟成されました。一方、今では、温度や湿度を管理した室内で乾燥されることが多く、天候に左右されず安定した品質を保つことができます。
昔の“それ”は調理する前に塩抜きが必要でしたが、今の新巻鮭には必要ないものもあります。冷蔵・冷凍技術を利用することで、甘口の新巻鮭が誕生したわけです。見た目すっきり、うま味が凝縮、手間要らずの新巻鮭。誰か送ってこないかな、できれば切り身の真空パックがいいな・・・などと手のひら返しの年の暮れです。