新巻鮭、私の今昔物語

 スーパーのお歳暮コーナーに“新巻鮭”の文字が。冷蔵・冷凍状態での保存や輸送は当たり前、核家族化が進む現在、塩に漬けられた鮭丸ごと1尾をいただいて喜ぶ生活者はいるのだろうかと足が向きました。私の“それ”の印象は決してよいものではなく、子どもの頃、“それ”が私の部屋に吊り下げられたことが。海のある温暖な土地で生まれ育った母にとっては、「これはどうしたものか」の贈答品。冷蔵庫に入らないため、比較的温度が低い部屋に吊るしておけばいいとでも思ったのでしょう。怖い顔をした銀色に光る“それ”からは、脂は落ちるは生臭さは発せられるはで、さすがに閉口しました。
 ところが、スーパーの陳列用冷蔵庫に納まっている新巻鮭は、塩を纏わぬすっきりとした出で立ち。私の印象とはまったく違うものです。秋に獲れた鮭に粗塩をすり込み、塩漬けにした後、北国の冷たい風にさらして干したもの―。これが私の“それ”に関する知識のすべてですが、近年の新巻鮭は作り方のベースは変わらないものの、やはり昨今のギフトに相応しいカタチに変化しているようです。
 まず腹をさばいて内臓を取り出し、全体にまんべんなく塩をまぶして漬け、うま味を凝縮させます。昔は、鮭と塩を交互に積んで重石をかける「山漬け」製法が主流だったようですが、今は、生活者の減塩志向に合わせて塩分濃度を調整した塩水に漬け込むのが主流。手間がかかる「山漬け」は高級品とか。その後、昔は水洗いして塩を落とし、寒風にさらしてじっくりと干すことで独特のうま味が熟成されました。一方、今では、温度や湿度を管理した室内で乾燥されることが多く、天候に左右されず安定した品質を保つことができます。
 昔の“それ”は調理する前に塩抜きが必要でしたが、今の新巻鮭には必要ないものもあります。冷蔵・冷凍技術を利用することで、甘口の新巻鮭が誕生したわけです。見た目すっきり、うま味が凝縮、手間要らずの新巻鮭。誰か送ってこないかな、できれば切り身の真空パックがいいな・・・などと手のひら返しの年の暮れです。