食肉としてのクマ

 日本各地でクマの出没が相次ぎ、人的被害も続く中、猟師が営むジビエ店が連日満員なのだそう。駆除したクマの肉を消費することで、増えすぎたクマを適正な数に戻す動きが始まっています。
 ジビエ人気で、鹿やイノシシ、鴨などが気軽に食べられるようになりましたが、クマの肉はあまり目にしないと思います。実は、クマ肉のおいしさは高級和牛と比較されるほど。特に、冬眠前の秋。クマはどんぐりなどの木の実を食べて脂がのっているため、最もおいしいとか。一方、脂肪が抜けた春は、さっぱりとした味わいで、それはそれで美味といいます。
 部位によって味が異なり、ロースやヒレは、薪焼きやソテー、煮物に、脂が少なく焼くと硬くなるモモは煮込みに、内臓や脳みそはクマ汁のだしに使われます。クマ肉料理で有名なのは、手の平“クマ掌(ユウショウ)”。中国で古くから珍重されている部位です。味は、ゼラチン質のぷるぷるとした食感と、肉の濃厚なうま味が特徴。クマは右利きで、利き手ではちみつを舐めるからはちみつが染み込んだ右手がおいしい、いや左利きで、利き手で獣を襲うから肉がしまっている左手がおいしいなど、さまざまな風聞がありますが、実際の取引では右手のほうが高いそうです。
 ぬいぐるみや擬人化キャラクターとして世界中で人気者なのに、日本では、すっかり恐ろしい悪者になってしまったクマ。でも日本においては古くから、捨てる部分がないと言われ、特に山で暮らすマタギの文化にはなくてはならない存在でした。毛皮で暖をとり、肉を食べ、油を採り、胆嚢は今でも「クマの胆(クマノイ)」に加工され、鎮痛剤、胃腸薬として利用されています。
 人智が及ばないのが自然界であるということは重々承知しているつもりですが、地球の生態系が壊れていくプロセスが、私たちの想像をはるかに超えるスピードで進んでいること、そしてその主因が私たちヒトに在ることだけは十分に理解できます。