業界テクニックを家庭へ

 味の素が、7/24~27に「ららぽーと豊洲」(東京・江東)で開催したイベント“塩ひとさじでおうち焼肉革命”で提案したのは、同社の“瀬戸のほんじお”と水を混ぜたものに牛肉を浸けて冷蔵庫に30分入れておくだけで肉が軟らかく、素材の味がぐっと引き立つと謳うレシピ。肉を水溶液に浸けて軟らかくする手法は、食業界の人なら知っている人も多いはず。この手法を、家庭向けに発信している点がおもしろい。
 ネットで簡単に情報が得られる昨今、塩と砂糖と水を合わせた“ブライン液”を知っている生活者もいるでしょう。塩水やブライン液に肉を浸けておくと、浸透圧と保水力によってパサつきのない、軟らかな肉質に仕上がります。気を付けなくてはいけないのは、塩分濃度。ブライン液の塩と砂糖の濃度は5%が一般的。塩分濃度が高過ぎたり、浸け込み時間が長過ぎたりすると塩辛くなってしまいます。肉も、塊と薄切りでは塩分の浸透が異なりますし、ソースをかける仕上げだと、塩味が濃くなってしまうことも。
 スーパーのバックヤードで唐揚げを作る場合など、肉に水を加えて混ぜ込むことがあります。水分の蒸発量が多い唐揚げをジューシーに仕上げる手法で、歩留まりをよくするという目的も。水で量増ししているかのようにもとらえられかねませんが、家庭で“ジューシーな唐揚げを作るコツ”となれば、まったく問題ありません。実は私も、惣菜業界の大家に教えていただき、かなり以前から、唐揚げに限ってこの手法を活用しています。
 私はずっと以前から、業務用商品の秀逸性を生かした商品を家庭向けに販売してはという提案をしています。同様に、リーズナブルな食材をワンランクアップさせるなどの業界の秘技を、家庭向にアレンジして発信することもおもしろいのではないかと思います。伝承された家庭料理のコツでも、料理研究家やYouTuberが提案するアイデアでもない、研究と試作が繰り返された業界テクニック。覗きたい生活者は多いのでは。