肉をおいしく焼かせる焼肉店の工夫

 飲食店の中でも、焼肉業態は、よくよく考えてみると不思議なスタイルです。肉を焼くという調理は、ステーキ専門店や鉄板焼き店ならば熟練したプロの仕事。なのに焼肉店では、どんなに上等の肉であっても、素人の客に焼かせます。すき焼きやしゃぶしゃぶの老舗店でも、肉に火を通すのは、手慣れた仲居さんの仕事です。
 肉の部位と厚さ、サシの入り具合や熟成の度合いなどに合わせて最高な状態に焼くには、それ相応の経験と繊細な観察眼、おいしく焼いてやろうという探求心が必要です。それが素人にできるのか。焼き加減は、客の好みと言われてしまえばそれまでなのですが。
 そんな疑問を少しでも解決すべく、焼肉店「大砲館」が始めた取り組みは、提供する皿の色を使って肉の焼き加減を視覚的に簡単に判断できるシステム。しっかり焼きたい部位は赤い皿、レアやミディアムで仕上げたい部位は青い皿で提供されます。薄い牛タンは炙る程度、モモ肉はさっと焼き、カルビは脂の香ばしさを楽しみたいからじっくり。皿の色は2色ですからそこまで細かく提案できませんが、客の焼き加減に関するスタッフへの質問は少なくなるでしょうし、客は今までよりは、自信をもって焼くことができるようになるかもしれません。
 焼肉店でときどき気になるのは、隣席の、会話に夢中で焼き過ぎてしまった網の上の肉のこと。焼きながら食べる非日常感は、おしゃべりを増長させます。よく“焼肉を一緒に食べている男女は・・・”と言われますが、それは、おしゃべり抜きで肉だけに集中できるほど慣れ合った仲という意味なのではないかという解釈も成り立つと思うのです。もともと肉食文化が浅い日本人。肉を焼くのが上手いのかと問われれば、はなはだ疑問。全集中です。