需要と供給、繁忙時と閑散時に合わせて価格を変動させる「ダイナミックプライシング(以下DP)」。食市場のトレンド相関図に、このキーワードが初めて登場したのは、2020年です。宿泊施設の宿泊料や飛行機のチケット代でお馴染みですが、それが小売業、飲食業にも広がり始めたのです。
家電量販大手は、商品表示をデジタル化した「電子棚札」を導入。売れ筋や在庫状況、競合店やネット通販価格などデータを集めて分析し、本部の遠隔操作で販売価格を瞬時に変えることを可能にしました。一方スーパーは、生鮮食品売り場や惣菜売り場でAIを使ったDPの導入を積極的に展開しました。
飲食業界においては、寿司店が食材の仕入れ価格によってその日のネタの価格を変えるのは当たり前。さらには、顧客の信用度によって料理の価格を変えるという逆DPをシステムに取り入れようと画策した予約サイトもありました。
そしてとうとう、自販機にもDPの導入が始まります。富士電機が23年1月に発売するのは、天候や気温、設置場所、賞味期限、在庫状況、売れ行きといったデータを組み合わせて分析し、本部が価格を自由に変えられる飲料の自販機です。現在でも、観光地にある自販機の飲料の価格は街中のそれに比べて高めに設定されていますが、暑い日には冷たい飲料が、寒い日には温かい飲料が、更に値上げされるかもしれません。また作業員が商品を補充する際、日付を専用アプリに入力し、その情報を基に賞味期限が迫った商品の価格を調整する仕組みもあるので、日持ちしにくいホット飲料などはタイミングが合えばお得に買えるかもしれません。
小売業者や飲食業者にとっては、ムダやチャンスロスをなくし、売り上げ増を狙えるDP。米国では、DPの導入で利益が3~7%伸びるとの研究結果もあります。SDGsを追い風に、食品ロスをなくす手段としても、DPに寄せる期待は大きいと思います。