町中華の至高のルーティン

 今週の「食のトレンド情報」に、ASPiA JAPAN(アスピアジャパン、東京・台東)が1cc精密ディスペンサー「ECOSAS味ピタ」を開発したという記事がありました。ワンタッチ操作で液体調味料を正確な分量吐出できるため、経験や勘、感覚に頼ることなく、新人でも初日から熟練者に近い調理品質を再現できるといいます。HPでは、お玉の底で押すとディスペンサーから調味料が出てくる、中華料理店の厨房を想定した動画が見られます。
 突然ですが、私は町中華が大好きです。その魅力は、何といっても油っぽくて濃い味付けの料理を、ビールやチューハイで流し込むことにあり。〆の炭水化物まで用意されている憎らしい飲食業態と言うほかはありません。
 そんな店で時々出会うのは、齢70を過ぎているであろう中華鍋を振る料理人。炎に向き合って〇十年の蓄積を表すものは、身体の曲がり具合です。コンロの角度に沿うように曲がったまま。彼らに共通しているのは、大きなお玉で調味料をそれぞれの適量、次々にすくい取り、中華鍋に放り込む技。仕上げの水溶き片栗粉も、お玉の中で溶かして回し入れる。この一連の無駄のない動作は、見惚れるほどの完璧さです。
 渋谷にある24時間営業の町中華の店は、何といっても料理の提供スピードが速い。体感では1分以内にビールと炒め物が揃います。ここでも中年男性二人が中華鍋を振りまくり。もっと眺めていたいのに、ゆっくり食べていては申し訳ないほど、客の回転も速いのです。
 強い火力とベテランの迷いなき動き。ルーティンと表現しては失礼なほどの領域に入った“至高のルーティン”。それもまた町中華の魅力。やっぱり町中華は、経験と勘に裏付けされた熟練の技を楽しみたい。“鍋振りパフォーマンス”のカッコよさは、ディスペンサーを使っていては成り立たぬと思うのです。