気候変動の影響でコーヒー豆の収穫量が大幅に減ると言われている“コーヒーの2050年問題”が予見される中、コーヒーからシフトするように、紅茶市場がにわかに沸き立ち始めているとか。若年層を中心に、渋味や苦味がない飲料を好む傾向があり、加えて健康志向の高まりで、カフェインの過剰摂取を控えたいというニーズも。
2018年のトレンドキーワードに、【茶人気】があります。お茶の愛好家が多い英国と台湾から、紅茶だけでなく、抹茶やほうじ茶、中国茶などを本国の世界観の中で楽しめる店が、東京に続々上陸。サードウェーブコーヒーの手法に学んだ‟お茶好き”が新たな挑戦を始め、本格的なストレートティーだけでなく、さまざまにアレンジされたティードリンクが色鮮やかに展開されました。
一方、【茶人気】を受けてコーヒーチェーンも動き出していました。タリーズコーヒーが前年10月、紅茶メニューを17種類に充実させ、“ティーサンド”や“オリジナルスコーン”など紅茶に合う食事やスイーツを揃えた新型カフェ「タリーズコーヒー&TEA 横浜元町店」をオープン。スターバックスコーヒーも同時期に、米国やヨーロッパで展開していた紅茶ブランド「TEAVANA(ティバーナ)」の取り扱いを日本でも始めています。コーヒー&エスプレッソ、フラペチーノに続く第3の柱という位置付けで、“ティーを多彩に変えていく”というコンセプトを掲げ、茶葉にフルーツや花、スパイスなどを組み合わせたオリジナルの飲み物を、これまでとは異なる抽出方法で提供しました。
とは言え当時、紅茶飲料の市場は縮小傾向にあり、モスフードサービスが展開する紅茶専門店「マザーリーフ」も店舗数は伸び悩んでいました。これに対しコーヒー市場は拡大基調にあったのですが、コンビニの100円コーヒーやサードウェーブといわれる高付加価値コーヒー店の台頭で競争も激しくなっていました。そこで中堅カフェチェーンを中心に、市場の伸びしろが大きい紅茶に成長を託す形で紅茶注力の流れが始まったのです。
今年の紅茶人気の背景には、冒頭の若年層の嗜好と志向の変化に加え、猛暑による需要の高まりがあるそう。“企業の戦略VS生活者のニーズと気候変動”。今回のブームは底堅い?
月: 2025年8月
業界テクニックを家庭へ
味の素が、7/24~27に「ららぽーと豊洲」(東京・江東)で開催したイベント“塩ひとさじでおうち焼肉革命”で提案したのは、同社の“瀬戸のほんじお”と水を混ぜたものに牛肉を浸けて冷蔵庫に30分入れておくだけで肉が軟らかく、素材の味がぐっと引き立つと謳うレシピ。肉を水溶液に浸けて軟らかくする手法は、食業界の人なら知っている人も多いはず。この手法を、家庭向けに発信している点がおもしろい。
ネットで簡単に情報が得られる昨今、塩と砂糖と水を合わせた“ブライン液”を知っている生活者もいるでしょう。塩水やブライン液に肉を浸けておくと、浸透圧と保水力によってパサつきのない、軟らかな肉質に仕上がります。気を付けなくてはいけないのは、塩分濃度。ブライン液の塩と砂糖の濃度は5%が一般的。塩分濃度が高過ぎたり、浸け込み時間が長過ぎたりすると塩辛くなってしまいます。肉も、塊と薄切りでは塩分の浸透が異なりますし、ソースをかける仕上げだと、塩味が濃くなってしまうことも。
スーパーのバックヤードで唐揚げを作る場合など、肉に水を加えて混ぜ込むことがあります。水分の蒸発量が多い唐揚げをジューシーに仕上げる手法で、歩留まりをよくするという目的も。水で量増ししているかのようにもとらえられかねませんが、家庭で“ジューシーな唐揚げを作るコツ”となれば、まったく問題ありません。実は私も、惣菜業界の大家に教えていただき、かなり以前から、唐揚げに限ってこの手法を活用しています。
私はずっと以前から、業務用商品の秀逸性を生かした商品を家庭向けに販売してはという提案をしています。同様に、リーズナブルな食材をワンランクアップさせるなどの業界の秘技を、家庭向にアレンジして発信することもおもしろいのではないかと思います。伝承された家庭料理のコツでも、料理研究家やYouTuberが提案するアイデアでもない、研究と試作が繰り返された業界テクニック。覗きたい生活者は多いのでは。
肉をおいしく焼かせる焼肉店の工夫
飲食店の中でも、焼肉業態は、よくよく考えてみると不思議なスタイルです。肉を焼くという調理は、ステーキ専門店や鉄板焼き店ならば熟練したプロの仕事。なのに焼肉店では、どんなに上等の肉であっても、素人の客に焼かせます。すき焼きやしゃぶしゃぶの老舗店でも、肉に火を通すのは、手慣れた仲居さんの仕事です。
肉の部位と厚さ、サシの入り具合や熟成の度合いなどに合わせて最高な状態に焼くには、それ相応の経験と繊細な観察眼、おいしく焼いてやろうという探求心が必要です。それが素人にできるのか。焼き加減は、客の好みと言われてしまえばそれまでなのですが。
そんな疑問を少しでも解決すべく、焼肉店「大砲館」が始めた取り組みは、提供する皿の色を使って肉の焼き加減を視覚的に簡単に判断できるシステム。しっかり焼きたい部位は赤い皿、レアやミディアムで仕上げたい部位は青い皿で提供されます。薄い牛タンは炙る程度、モモ肉はさっと焼き、カルビは脂の香ばしさを楽しみたいからじっくり。皿の色は2色ですからそこまで細かく提案できませんが、客の焼き加減に関するスタッフへの質問は少なくなるでしょうし、客は今までよりは、自信をもって焼くことができるようになるかもしれません。
焼肉店でときどき気になるのは、隣席の、会話に夢中で焼き過ぎてしまった網の上の肉のこと。焼きながら食べる非日常感は、おしゃべりを増長させます。よく“焼肉を一緒に食べている男女は・・・”と言われますが、それは、おしゃべり抜きで肉だけに集中できるほど慣れ合った仲という意味なのではないかという解釈も成り立つと思うのです。もともと肉食文化が浅い日本人。肉を焼くのが上手いのかと問われれば、はなはだ疑問。全集中です。
今年も鍋商戦が始まりました
7月に入ると鍋商戦の狼煙が上がります。冷房で冷えた身体を温めたい―。そんなニーズを狙ってか、8月発売の新商品が目白押しです。
ヤマキは、顆粒タイプの鍋つゆの素「サッと鍋」を発売します。液体タイプの鍋つゆと比べて軽量、保存・保管がしやすい、人数に関係なくムダがないというドライタイプの利点に加え、山盛り大さじ1杯(約10g)が1人前の設計で、キューブやポーションでは難しい、味の濃淡の調整がしやすいという使い勝手の良さをアピールします。顆粒の鍋つゆ商品は、シマヤからも発売されています。因みにシマヤは昨年、麺つゆとしては珍しい、顆粒スティックタイプの「溶かせば、そうめんつゆ」「同 ざるそばつゆ」を発売しました。お弁当やキャンプなどアウトドアシーンでも手軽にそうめんやざるそばを楽しめると謳いますが、家庭利用をメインとするならば、手軽さよりも適量を自分で決められる方がうれしいし、ボトルタイプで割安になれば、食費の高騰に苦しむ生活者にもっと歓迎されるのではと思います。しかもエコ。
一方、モランボンがこの冬ターゲットのひとつに加えたのが、若年層。ラーメンの“つけ麺”に着想を得た新テイスト「しゃぶしゃぶのつけだれ 魚介とんこつ味」を開発しました。カツオ、サバ、煮干しとトンコツのうま味に、隠し味としてゆずを加えたクセになる味わいとか。“ぽん酢だれ”や“ごまだれ”など定番の味では満足しない層にアピールします。さらにモランボンは、ラーメンテイストの野菜炒めの素「野菜ましまし炒めのたれ 背脂醤油味」「同 ガーリック味噌味」も発売予定。こちらも、若者の間で“ラーメン味×野菜”というトレンドが広がっている点に着目しての提案です。
ドレッシングの新たな使い方を提案し続けているキユーピーの新作は、サラダだけでなく、鍋のたれ使いにもぴったりと謳う「深煎りごまドレッシング」の秋冬限定品「にんにく味噌味」と「柚子こしょう」。前者はしゃぶしゃぶなど豚肉を使った鍋に、後者は水炊きなどによく合うといいます。“豚しゃぶサラダ”と“ごまドレッシング”の相性の良さは皆が認めるところ。ドレッシングと鍋だれの二刀流。はたして皆が認める活躍ができるのか、楽しみです。