かなり既視感がある情報です。[タリーズコーヒージャパンが、4/23~9月末、東京・大手町エリアにおいて、真空断熱ボトルのリユースサービス“WELLCUP”の実証実験を行っている]という内容。利用者はスマホでドリンク注文時に真空断熱ボトルの貸し出しを依頼することが可能。“WELLCUP”導入店であればどこでも、そのままボトルを返却できるというシステムです。料金はかからず、今回はタイガー魔法瓶の真空断熱ボトルが利用できます。
コーヒーチェーンの使い捨てカップ削減の取り組み。試行錯誤?が繰り返されています。記憶に古いところでは、2007年、「スターバックスコーヒー井の頭公園店」が始めた、無料でmyマグカップを預かるサービス。魔法瓶メーカーの参入も相次ぎました。20年、サーモスが東京・西新橋と大手町に開店した、マイボトル持ち込みを前提としたテイクアウト専門のコーヒー店「THERMOS COFFEE TO GO」、22年、象印マホービンが始めたマイボトルを活用したモバイルオーダーサービス“ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK”の実証実験。今回のタイガー魔法瓶の参入で、揃い踏みという印象です。因みに、サーモスも象印も、現在までの継続はなく、店舗はクローズ、実験は終了したとの告知のみ。
一方、安価なコーヒーショップとして人気のコンビニは。ローソンのマチカフェを除いて、マイボトル対応はしていません。理由は簡単。ローソンのマチカフェは店員がコーヒーを注ぐので、持参したマイボトルがマシンのサイズに合わなかった場合でも、店舗にある専用メジャーカップで抽出してタンブラーに移し替えてくれるのですが、他のコンビニでは、それかできないということです。
酷暑で水筒の売り上げは好調。マイボトルを持ち歩く生活者はかなり増えたと思います。でもそのボトルには、既に家で入れた何かが入っています。加えて、新型コロナ後、毎日、同じ駅を利用し、同じ道を使う生活者は少なくなっています。コーヒー豆価格が上昇を続ける中、環境問題に取り組む姿勢を明確にし、少しでも経費を削減したい提供者と、価格高騰をきっかけにあっさりとコーヒーの常習性から離脱しそうな生活者。この既視感も、まだまだ続きそうです。
月: 2025年7月
真夏の火鉢とぬくもり中華まん
時代にも季節にも合っていないと思われる商品でも、売れることがあります。私は時々講演で、【真夏の火鉢】を例にお話しします。暖を取る火鉢は真夏には不要、火鉢で暖を取る家庭は、今ではほとんどありません。暖房器具としてはオワコンでも、陶器の火鉢はワインクーラーとして海外でも人気になりました。同様に、ヒノキの桶をスタイリッシュにデザインしたワインクーラーは、海外の三ツ星レストランから引っ張りだこ。予約待ちです。
今は売れない、市場性はないと思われるものでも、知らない人にとっては新鮮で、新しい使い方・食し方の提案によっては、売れる商品になる可能性があります。
そのひとつが、“真夏の冷やして食べる”戦略。過去には、カレーやラーメン、ポテトチップスやクリームパンなど、冷やしていただく加工食品が続々登場しました。動物性油脂を使った商品は植物性に置き換えて融点を低くするなどの工夫を施し、冷やしても固まらず、口当たりよく、すっきりとした味わいの商品開発が目立ちました。
今夏、“真夏の中華まん”戦略を仕掛けたのが、中村屋です。7/1~8/31、手のひらサイズの中華まん「てのひらまん」を販売しています。電子レンジで10秒温めるだけでしっとり食感が楽しめる生地を新たに開発。熱々ではなく“ぬくもり温度”に仕上がるため、暑い時期にもぴったりだといいます。“冷やしておいしい中華まん”ではなく、落としどころは“ぬくもり温度”。夏休みの子どものおやつにちょうどいい大きさで、惣菜パンのように食べられる温度帯を目指した開発です。
蒸し暑さに慣れるまでは冷たい食品を求める生活者も、それに慣れてくると、エアコンによって冷えた身体を温めるメニューを求める傾向があるとか。真夏の“アツアツ中華まん”にも商機があるのかもしれませんね。
食市場のトレンドは“キャンセル界隈”の集合体?
“キャンセル界隈”。ある行動を意図的にしない人たち、またはその行動やそれに関連する話題を指すネットスラングだそう。最近、話題になったのはお風呂に入らない“風呂キャンセル界隈”。ほかにも、“外出キャンセル界隈”“ご飯キャンセル界隈”“睡眠キャンセル界隈”などいろいろ発生しています。“界隈”を付けることで眉をひそめられそうな“〇○キャンセル”に関してある一定以上の仲間が存在していることを匂わし、自己肯定しているように感じられます。
最近よく聞かれるのが、“コンロキャンセル界隈”。コンロがあっても使わず、電子レンジや電気ポットなどの調理家電のみで料理を済ませる人たちのこと。汚れるのがイヤ、掃除が面倒という理由でコンロがあっても使わない一人暮らしの若者が増えている実態は、2009年のトレンド講演でも[レンジ調理]というキーワードの中で紹介しています。[お手軽志向]が広がる中、電子レンジでカンタンに料理ができる加工食品が次々と開発され、人気になりました。その中には、電子レンジはあっても、鍋ややかんはないという一人暮らしの若者をターゲットにした商品も登場しています。
日清食品は08年秋、電子レンジで調理する「カップヌードルレンジ」シリーズを発売しました。水を注ぎ、電子レンジで5分半温めるだけで食べられます。当時の“コンロキャンセル界隈”は、電子レンジで水を温めてカップ麺を作っていましたから、電子レンジで加熱できる商品は、さぞ画期的だったことでしょう。
コンロの設置場所を収納スペースに転換した賃貸住宅や、取り外し可能なバスタブを備えたバスルームの提案など、住宅市場は“キャンセル界隈”対応を急ぎます。食市場にも、“キャンセル界隈”は過去から現在に至るまで、次々に誕生しています。今年のキーワードを例にとるなら[調理休活] →“調理キャンセル界隈 = 調理を休みたくなるときはいつだって誰にだってある!”。[背徳ウェルビーイング] →“ヘルシーキャンセル界隈 = 背徳しているけれどそれは心の解放!”。そんな眉をひそめられそうな生活者の“心の叫び界隈”で成り立っているのが、食市場なのかもしれません。
蛇口から何が出る?
蛇口から水ではない液体が出てくる「〇〇蛇口」。アサヒ飲料が始めたのが、蛇口をひねると“カルピス”が出てくる機材“カルピスじゃぐち”の実証実験。三重県多気町の「HOTEL VISON(ホテルヴィソン)」に設置し、ウェルカムドリンクとしてカルピスを提供します。その目的は、カルピスとの親和感の醸成と体験価値の提供と推測します。
「〇○蛇口」は、地域活性にも利用されています。愛媛県松山市の学校施設をリノベーションした施設「シン・エヒメ分校」。元学校の手洗い場には、5種類のみかんジュース(有料)が選べる蛇口があります。「ホテル道後やや」では宿泊客に限り、蛇口をひねれば3種のみかんジュースがいくらでもいただけます。神奈川県の「箱根関所旅物語館」に設置されている蛇口からは、伊豆産ニューサマーオレンジの果汁。東北自動車道国見SA下り線(福島県)では桃ジュースが、神戸淡路鳴門自動車道淡路SAでは「たまねぎスープ」が。香川県高松空港のターミナルビル2階にある「空の駅かがわ」の一角に設置された蛇口から出てくるのは、いりこ、カツオ節、昆布をブレンドした「かけだし」です。
一方、蛇口を人手不足に利用しているのが、飲食店。客席に設置された蛇口からいろいろな種類の酒が出てきます。基本、時間内であれば無制限に飲めますが、氷や割り材は有料。“常温ストレート派”が最強を極めるシステムです。
“蛇口から何かが出てくる!”。かなり非日常的でワクワク感があり、楽しい仕掛けです。茶処静岡県西部で育った私の場合、小学校の給食時には、大きなやかんで煎れた緑茶が提供されました。それがとても珍しいことだと知ったのは、東京に来てから。“静岡県の小学校の水飲み場には<水> <お茶>と選べる蛇口があった”なんていう愉快な都市伝説。ひそかに妄想しています。