梅雨入り宣言は、おいしい夏野菜を手頃にいただける季節の始まりを意味します。私は、なすが大好きです。なすは油と相性がいい野菜。淡泊な素材に油のコクがマッチします。ただ、乾いたスポンジのように、どんどんどんどん油を吸い込んでしまうので、なす自体は低カロリーなのですが、うっかりすると高カロリーの料理になってしまうことも。
なすの料理名で、最近耳目にすることが少なくなったと思うのが「なべしぎ」。幼少期、母からよく「なべしぎ」という言葉を聞きました。「なべしぎ?」。なぜ「なべしぎ」なのかは分かりませんでしたが、それが「なすのみそ炒め煮」であることは理解していました。
元は、「なすのみそ田楽」を「しぎ焼き」と呼び、それを鍋で作るようになり、「なべしぎ」になったようです。「しぎ」は、鳥の鴫(しぎ)のこと。なすと一緒に鴫の肉を合わせて調理したから、なすの切り口にみそを付けた様が鴫の頭に似ていたから、さらに調べると、なすのヘタを鴫の頭に見立てて飾り付けたからなどなど。その由縁はいろいろ。ヘタから延びる茎のカタチが、鴫の長くて細い嘴のようだからかもしれません。
「しぎ」の名前が付いた料理はほかに、「しぎ炊き」があります。言わずと知れた「ホテル椿山荘東京」のスペシャリティ「米茄子の鴫炊き」です。米寿の米なす、喜ぶの昆布、白髪ねぎと縁起を担いだ素材で仕上げた逸品です。米なすを色が付くまで揚げ、熱湯に浸して油を抜き、調味しただしでとろとろに煮上げ、器に盛って白髪ねぎ、とろろ昆布、糸赤唐辛子を天盛りにします。
日本の米なすは、米国の「ブラックビューティー」という品種を改良して作られています。特徴は、ヘタが緑色で肉質がしっかりしていて煮くずれしにくいこと。ステーキやラタトゥイユなどには最適です。反対に、煮てもとろとろにはなりにくく、日本のなすと同様に扱うと大きなしっぺ返しを食います。