農林水産省が継続的に備蓄米を放出しているにもかかわらず、米価はなかなか元に戻りません。外食市場では、ご飯の大盛り・お替わりサービスを中止、或いは、ご飯もののメニュー価格を引き上げる飲食店が続出。スーパーや米卸、食品商社は米国や台湾からの輸入米の販売を始めています。
もちろん、米不足は今に始まったことではありません。銀シャリが食べられない、贅沢品と思われた時代は、昭和にも幾度か。戦時中はもちろん、戦後しばらく経った昭和中期でも、健康を第一の目的としない、カサ増しとしての麦の需要はありました。麦に対する認識も、今とは大分異なります。
米が食べられない時代のカサ増し法は、いろいろありますが、中でも世界的に知られているのは、68の国と地域で放送された「おしん」の“大根飯”でしょう。大根と葉を米に混ぜて炊いたもの。“大根飯”でレシピを検索すると、だしで炊く、しょうゆやみりんで味付けする、油揚げを加える、葉は仕上げに入れて彩りよく・・・などいろいろ。でも貧しさゆえの大根飯は、風味もなく、しぼんだ大根の辛味とえぐみが口中に広がる寂しい食だったに違いありません。
大根飯のように、米に芋やかぶ、かぼちゃや豆、山菜や海藻などの食品を混ぜて炊いたご飯を“かて飯”といいます。カサ増しの工夫もいろいろ、そして現代では、そちらのほうが健康的と言われるようにも。
「平成の米騒動」では、タイ米(長粒米)が大量に輸入され、不評を買いました。タイ米をジャポニカ米(短粒米)と同じ米として食すれば、風味も食感も異なりますから“違う”=“まずい”となるのは当然です。でも東南アジアの料理に合わせれば、この上なくおいしくいただけますし、これを機にたくさん輸入されて安くなればいいなと、私は思いました。
クライシスはいろいろ。自然や環境の影響を受ける農水産物には付き物です。でもその度に苦肉の策、画期的な工夫と挑戦、発見を繰り返し、史実、教訓、文化に転換してしまうのが人間の力です。今回の米クライシスは、酷暑消費を追い風に麺市場を賑やかす要因になるでしょう。が一方で、米の楽しみ方を広げ、新しいアイデアを流布し、米食文化を刷新できるのも、食市場に生きる私たちだと思います。