日本の代替タンパク源? コオロギとカイコ

 プロテインクライシス(タンパク質危機)とは、地球人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れること。2050年には、タンパク質の供給量が足りなくなる可能性があると予想されています。肉はもとより肥育のための飼料、植物性タンパク源の大豆など、その供給を一定以上輸入に頼る日本において、代替タンパク源の研究開発と安定供給は、まさに焦眉の急とされる課題です。
 動物性タンパク質に替わるものとしては、大豆などの豆類、きのこの菌糸体、藻類などがありますが、日本で一時、注目されたのは昆虫食。徳島大学発のベンチャー会社「グリラス」がコオロギの食用化に取り組み、パンやスナック菓子などさまざまな食品にコオロギを添加。ファミリーマートと共同で商品開発をするほどの勢いがあったのですが、24年11月、SNSの炎上が原因でクライアントが離れ、自己破産を申請しました。
 とはいえ、代替タンパク源としての昆虫利用は、そうそう簡単に諦められるものではありません。17の大学・研究機関が参画する「昆虫利用型食料生産コンソーシアム」を中心に、昆虫の機能性を軸とした循環型食料生産システムの研究が進んでいます。コオロギの雑食性を生かし、廃棄される農作物など未利用資源をエサにする研究が進行。大きく成長させ、食用としてよりおいしいコオロギを育てる研究も始まっています。
 そしてもうひとつ、良質なタンパク質を作り出すことが知られてきたのがカイコ。新たな技術でバイオや食品産業に転用する動きが広がりつつあります。「Morus(モルス)」は、カイコの幼虫を粉末状にし、代替タンパク源として東南アジアのレストランやジムに販売。昨年、シンガポールに販売拠点を作りました。愛媛県で養蚕産業を展開する「ユナイテッドシルク」は、繭の抽出成分を事業化。粉状にして微量をパンに混ぜればしっとり感が増し、麺類に配合すればコシのある食感に仕上がるといいます。

“米料亭”で炊き立てご飯

 「銀座米料亭 八代目儀兵衛」でランチをいただきました。“五ツ星お米マイスター”を取得し、2009年京都に「京の米料亭 八代目儀兵衛」を、13年に同店をオープンさせています。
 インバウンド需要を追い風に、1時間おきの予約は連日ほぼいっぱい。ランチメニューは、すき焼きやひつまぶし、お茶漬けなどもありますが、一番人気はやはり、お造りや焼き魚、天ぷらなどがセットになった“満開御膳”。ご飯の風味を存分に楽しみたいなら、これ一択です。予約時間の15分前までに店頭へ、入店するとすぐに料理が提供され、食事時間は30分ほど。次々に客の入れ替えが行われ、回転はムダなく進みます。
 ご飯にはおこげが添えられ、特製の塩かごま塩をかけていただきます。米菓のような食感と香ばしさ。ご飯は、風味が立ち、ほんのり甘くて、適度に温かく。炊き上がってから10分以上経過したご飯は出さないと言います。
 ウチでもおいしいご飯を炊きたくて、オリジナルブレンド米“翁霞”を購入。“おいしい炊き方”の指南書には、炊飯器の早炊きがお勧めとありましたが、土鍋派の私は我が家の炊飯釜で。悔しくも、店の味には敵わず。店で使われている炊飯釜は、佐賀有田の窯元と3年半をかけて開発した“Bamboo!!”とか。買わずにおれるか!でサイトに行くと売り切れ。
 「八代目儀兵衛」の米をメニューのウリにしている飲食店も多く、ミシュランの星付きレストランから機内食向けに航空会社にまで米を卸していますし、23年には、セブン-イレブン・ジャパンのおにぎりの米の監修も始めています。またさまざまな企業が、「八代目儀兵衛」の米をギフトやノベルティに利用しています。確かに、お墨付きのブレンド米をいただいて困る人はいないでしょうから、贈り物には最適です。
 米不足で、初めて日本の米事情を知った生活者も多いことでしょう。塩やしょうゆ、みそがあれば、ご飯をおいしくいただけるのが瑞穂の国の民。米作政策について改めて考えさせられたランチでした。

「水炒め」と「水淹れコーヒー」

 言い方を変えれば別物? 最近目にして驚いたのは、「水炒め」。NHK「きょうの料理」で、料理研究家の脇 雅世氏が紹介していた料理法です。きっかけは“油を控えたい”という夫の一言からとか。油の代わりに少量の水を熱して素材に火を通す手法で、くっつかないフライパンを使い、水分の蒸発が速いようなら途中で水を足すなどして仕上げます。<炒め物には油>という固定概念があれば、<水で炒める>は新鮮です。でも手順を見ると、これは<炒め蒸し>または<蒸し煮>。ただ水の量は大さじ1杯など少なく、あたかも<油を水に置き換えたヘルシーな新しい料理法>という伝わり方をするだろうことは容易に推測できます。
 今春、UCC上島珈琲がアイスコーヒーの新定番として提案しているのは、「水淹れコーヒー」です。年間を通してアイスコーヒーを楽しむ生活者が多いという調査結果を得て、雑味が少なく、すっきりまろやかな味わいで香り豊かな「水淹れコーヒー」に注目。ひと晩水に漬けておくだけで手軽に「水淹れコーヒー」が楽しめる家庭用のバッグタイプ製品を発売しました。「水淹れコーヒー」。これ、いわゆるコールドブリュー、「水出しコーヒー」です。今後、ペットボトルやリキャップ缶製品を投入するほか、外食店でのメニュー導入を提案する予定です。“水出しは知っているけれど、水淹れって?”。<未知の淹れ方のコーヒー>として興味を持つ生活者は多いだろうことは容易に推測できます。
  関西の「水炊き」は、まさに水で食材を炊く(煮る)し、「水煮」は魚や野菜の保存方法。例えば「水揚げ」と表現する新手法はあるのかと考えても、「(水から)ゆでる」と同じだからあり得ず。「水焼き」は料理法としては見当たりませんが、シャープが“ウォーターオーブンヘルシオ”の説明で、100℃以上の高温状態にした“過熱水蒸気”で食品に大量の熱を伝えることを「水で焼く」と表現しています。

マグロ、完全養殖から短期養殖へ

 今年2/2、日本経済新聞の見出しに驚きました。「マグロ完全養殖 ほぼ消滅」。完全養殖によるクロマグロの商業生産がほぼ消滅する見通しという内容です。マルハニチロが2025年度の生産量を前年度比8割減らすほか、ニッスイは一旦停止、極洋は完全養殖の子会社が債務超過に陥り24年に解散しました。
 トレンド情報でも講演でも取り上げた「近大マグロ」。近畿大学が32年の歳月をかけ、02年に世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロ食べたさに、グランフロント大阪にオープンしたばかりの「近畿大学水産研究所」に馳せ参じたことを思い出します。
 完全養殖とは、人工ふ化させた卵から親魚を育て、その卵を再び人工ふ化して育てる持続可能な養殖法。天然の稚魚を捕獲する必要がなく、マグロ資源の減少を防ぐことができます。海外での寿司ブームを背景にマグロの価格が上がり、他国による乱獲や日本の買い負けが危惧されていたタイミングでの完全養殖成功の話。夢の技術として投資が活発化し、おいしいマグロが安定した価格でいただけると市場は大歓迎ムードでした。
 それがほぼ消滅とは。理由は、資源量が回復していることに加え、エサ代や人件費など生産原価が高騰しているため。そして昨今、完全養殖に代わる方法として注目されているのが、短期養殖です。天然の成魚を捕獲し、“数カ月”だけいけすで太らせて出荷する養殖法で、通常のマグロ養殖の場合、天然の稚魚を出荷できるまでに成長させる期間は3~4年。卵からふ化させる完全養殖では5年かかりますから、養殖期間が少ない分、コストが抑えられます。
 とはいえ、またいつマグロが獲れなくなるやも知れず。マルハニチロは「完全養殖は絶対にやめない」と言います。一度撤退すれば再開に10年はかかるから。一方、近畿大学は、成長が早い稚魚の研究、早く成長させ、天然資源に依存しないエサの開発、成魚の生残率の向上と魚体の変形防止への対策など、完全養殖の課題解決に向けた研究を強化しています。マダイやヒラメ、シマアジ、サーモンの養殖では、完全養殖が主流だとか。目の前に流れる寿司ネタの事情を少しでも知ると、愛着がわくから不思議です。

左上位と右上位

 幼児期に買ってもらったお雛様を、吉日を選んで飾ります。毎年迷うのは、男雛と女雛の位置。古い箱の下に入っているしおりの写真が頼りです。
 今年初めてSNSで確認したところ、関東では向かって左が男雛、右が女雛。関西では逆という風習を知りました。関西と言っても、京都とその周辺の地域に限っているようで、東西で2分されるわけではありません。因みに、九州は関東と同じのようです。
 京都とその周辺の地域で男雛が向かって右の理由は、南に向かって左は太陽が昇る東の方向。太陽が沈む西より尊重されていたため、左上位という考えが生まれたのだとか。この左右は当人にとっての位置なので、「向かってどっち?」は逆になります。では、なぜ他の地域では向かって左が男雛、右が女雛なのでしょう。その理由のひとつが、明治になって右を尊ぶ欧米のマナーが日本に入ったこと。五輪の表彰式でも、金をはさんで右(向かって左)が銀、左(向かって右)が銅です。そしてもうひとつが、徳川家康の孫「興子(おきこ)内親王」が後に即位し明正天皇となってから、故事に倣い、江戸では上位の左(向かって右)に女雛を飾るようになったという説。江戸時代までの日本の礼法では、左(向かって右)が上座でした。
 この礼法は、膳の並びにも。左にご飯、右に汁物の配置は、米が何よりも偉いからで、平安時代の絵巻にも、ご飯は左、汁物は右に配膳されています。“右手で箸を使い、左手で飯椀を持ち上げるから”と、私も含め多くの日本人が常識と思っていることでしょう。
 が先日、昼のワイドショーでマナー講師が紹介した「正しい配膳」は、左手前に飯茶椀、その奥に汁椀、右手前に副菜、その奥に主菜、真ん中に香の物。私にとっては、まさに青天の霹靂。その理由は、「左回りに食べる順に並べる」「持ち上げるものを左に置き、右はつまむもの」と以前とはマナーが変化したと説明します。SNSでは多くの疑問と非難の声が上がったものの、「西の文化」「関西ルール」との助け舟も。いやはや、食作法の“お決まり事”は難中之難。