飲食店の想定外の残念なサービス

 飲食店での残念な体験は、料理の内容よりも、サービス面でのことが多いと思います。大きな期待を抱いて訪問した店の場合は料理のハードルも高くなりますが、そうでないとき、料理は往々にして想定内、一方サービス面は想定外のことが稀に起こります。
 宴会場での講演後、場は懇親会に移ります。円卓に着席してのイタリアン。全員が着席する前に注がれたスパークリングワインは、乾杯のときには既に泡はなく。残念ですが、“ありがち”で済ませます。驚いたのは、その後。パンが2個ずつ配られました。私が「ひとつで結構です」と言うと、「ひとり2個ですから」と受け入れてもらえません。しばらくして対面にお座りだった会長がサービスの方に「パンお替わりください」。返事はやはり「ひとり2個ですから」。さすがに同卓の皆さんもびっくり。「私のをどうぞ」と一斉にパン皿を差し出す事態に。“パンの2個縛り”で起こったこの珍事。さすがの私も初めての体験でした。
 上野で人気のそば屋へ。メニューにある“二色鴨ざる”の二色とはなんだろう。更科そばと田舎そばの組み合わせ?変わりそばかな?秋だから菊、さつま芋、ごま?などと思いを巡らせ、サービスの女性に尋ねると返って来たのは「2枚ということです」。「同じものが2枚、大盛りということ?」「はいそうです」。運ばれたのは、案の定、普通のそばと田舎そばの組み合わせでした。
 「パンはひとり2個ですから」はおもてなしの気持ちからは生まれない言葉だし、メニューにある料理の内容を理解していないのは、サービス担当としては致命的です。人手不足が深刻な業界。すぐに辞めてしまうかもしれないアルバイトにムダな時間は割けないし、多く(?)を求めたら辞めてしまうかもしれないということなのでしょうか。そう思うと、過客に過ぎない私が物申してもという気持ちになり。同時に、もう何でもいいからがんばれ!という気持ちにもなり。愁う秋です。

銀行が「Olive LOUNGE」に大変身!

 今年5/27、渋谷西武B館の1、2階、三井住友銀行のあった場所にドドーンと「Olive LOUNGE(オリーブラウンジ)渋谷店」がオープンしました。1階は、三井住友銀行の窓口とATMコーナーに、スターバックスが併設されています。公園通りと井の頭通りに面したカジュアルながらくつろぎ感のある明るい空間です。2階は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が運営するコワーキングスペース「SHARE LOUNGE(シェアラウンジ)」。シンプルな1名席、窓に面した2名席、ソファの4名席のほか、半個室や4、5名で使える会議室も用意されています。プランには、ソフトドリンクプランに加え、スパークリングワインやハイボールが飲み放題のアルコールプランもあります。スナックやクッキー、パン、スープ、ソフトクリームなども食べ放題。アルコールプランがあるからか、味付けうずら卵やチータラなどのおつまみも完備です。1、2階のどちらもグリーンと木を基調とした空間。1階はスタバグリーン、2階はオリーブグリーンで微妙に異なるのかもしれませんが、どちらにしても「Olive LOUNGE」とスタバの親和性は高いと言えます。
 「Olive LOUNGE」は、三井住友フィナンシャルグループ(以下SMBC)の個人向け金融サービス「Olive」をモチーフとした新しいコンセプト店で、資産運用等の相談やVポイントの使い方などをレクチャーしたり、金融に関する知識が得られるセミナーなどを開催したりする場でもあります。因みに、SMBC とCCCは資本・業務提携をしている関係で、前者のVポイントと後者のTポイントは、4/22に新しいVポイントに統合されています。
 銀行の支店は統廃合が進み窓口業務がどんどん縮小する一方、「Olive LOUNGE」の展開には積極的なようで、10/7には東京・下高井戸にもオープンしました。貯蓄から運用へ。顧客獲得のためのポイント活用。金融業界の舵切りが大胆に行われ、そこに飲食を融合させた空間は欠かせないようです。

食企業発祥の地、知多半島

 海に面した温泉旅館を訪ねて知多半島へ。観光地としては余りメジャーではありませんが、食に関してはとても興味深い半島です。
 知多半島に位置する半田市には、ミツカンの本社とミュージアムがあります。ミュージアムでは、酢造りの歴史や工程を実物の桶や実際に発酵している様子を見ながら学べると共に、身体を動かしながらそれらを覚えられるアトラクションもあります。米酢はふつう米から造りますが、ミツカンは酒粕を原料にしています。酒造業を営んでいた創業者の中埜又左衛門は、酒と同時に大量に産出される酒粕を上手く利用できないかと考え、酒粕から酢を造ることを思い付いたといいます。
 半田市にはビール会社もありました。ここでも登場するのは、中埜又左衛門。と言っても四代目です。明治20(1887)年、敷島製パンの前身である敷島屋製粉場を開業した盛田善平と共に、「丸三ビール醸造所」を設立。数年後には、本格的ドイツビール製造に向けてドイツからビール醸造器械を買い入れ、ドイツ人醸造技師を招いて「カブトビール」を発売しました。「カブトビール」は、東海地方では最大のシェアを持つほどに急成長。今でも醸造所の一部が「半田赤レンガ建物」として残されていて、当時としては先進的な「カブトビール」の販促物をいろいろ見ることができます。盛田善平は、ソニーグループの創業者、盛田昭夫の実家、盛田の関係筋に当たります。盛田も日本酒やしょうゆ、みそなどを製造する醸造会社で、発祥は知多半島の常滑市です。常滑と言えば、急須に代表される六古窯のひとつ、常滑焼が有名。もうひとつ、知多半島の入り口東海市は、カゴメの創業の地です。
 海に囲まれた知多半島は、海運業も盛んでした。ミツカンの酢は、半田運河で船に積まれ、握り寿司がブームになった江戸の街に運ばれて行ったのでしょう。(※敬称略)

飲食業界で細分化する二極化

 今年5/20のhimeko’s COLUMN「もはや“安上がり”ではないファストフード」の中で、度重なる値上げを断行するマクドナルドに対して一抹の寂しさがあるという一文を書きました。FFが生まれた国、米国でも富裕層と貧困層の経済格差が拡大する中、米国人の74%がFFを贅沢品と考えるようになり、62%は以前のように気楽にFFを食べなくなったという衝撃的なデータが紹介されています。各FFチェーンは、贅沢なイメージを払拭するキャンペーンを実施。物価に便乗して安易に値上げをしているというネット上の批判を否定しているようですが、一度付いてしまった割高イメージを一掃するのは難しいようです。
 日本においては、ハンバーガーチェーン各社が高価格商品を展開するなど勢いを付けている一方で、ファミリーレストランは店舗数が減少。特に中価格帯のチェーンが苦戦しているようです。低価格帯のチェーンより品揃えを多くしているもののそれが魅力に繋がっていない、空間的に高めの演出はしているもののフルサービスではなくタブレットや配膳ロボットを使うなど、中途半端さが目立ちます。
 経済格差の二極化が拡大する中、飲食業界では立ち位置の選択が難しくなっていると痛感します。東京においては、飲食店の価格は確実に上がっています。今までなら中価格帯と判断されただろう店が開店当初から高価格帯に属する値付けでスタート。既に高価格帯に属していた店はさらに高価格帯にシフトするなど、高価格帯の中でも二極化が生まれていて、それは明らかに円安によるインバウンド消費が背中を押していると思われます。同様に、今まで低価格と思われていたFFでも二極化が生まれていて、大雑把に言えば、ハンバーガーやカレーは上に、丼ものやそば、うどんは下に棲み分けられているのが実情です。
 石破茂氏が自民党総裁に選出され、一気に進んだ円高。インバウンド消費が減速したとき、二極化の上の波に乗った飲食店はどうするのか。興味深く見続けようと思います。