米国旅行中、ミズーリ州の田舎町のライブハウスでも、セントルイスのソウルバーでも、マンハッタンのステーキハウスでも、「お薦めのカクテルは?」と聞くと答えは決まって“エスプレッソマティーニ”。バーで“エクストラ・ドライマティーニ”以外のカクテルをオーダーすることがほぼない私にとっては、初めて聞くカクテルの名前でした。が実は、オーセンティックバーではずっと以前から提供されているスタンダードカクテルでした。
“エスプレッソマティーニ”はエスプレッソコーヒーを主成分としたカクテルの総称のよう。エスプレッソコーヒーとウオツカ、コーヒーリキュール、砂糖シロップなどの甘味料が基本のレシピです。本来、マティーニはジンをベースにベルモットで香りを付けたカクテル。ウオツカが使われているのになぜ“マティーニ”と呼ばれるのか。アメリカの場合、マティーニグラスを使い、バーテンダーが「マティーニ」と言えば、それは“マティーニ”なのだとか。確かに、ウオツカだけでなく、バーボンやラム、テキーラやブランデーで作るレシピもあるようで、アメリカではカクテルもおおらかです。
肝心の味は、エスプレッソコーヒーの苦味と甘味料の甘さ、そこにウオツカのキリッとした特有の風味が絶妙に絡み合うのが特徴。クセが強い酒が苦手の人でも楽しめる、大人のカクテルです。コーヒーのサードウェーブをきっかけに米国ではもちろん、世界中でブームになったようで、もちろん日本のバーやカフェでも味わえます。2019年、東京・中目黒にオープンした“STARBUCKS RESERVE® ROASTERY TOKYO(スターバックスリザーブ®ロースタリートーキョー)では、“スターバックス リザーブ”を冠する初めてのカクテルとして登場しています。
バーでもカフェでも提供されるこのカクテル。注目したいのは、作り手がバーテンダーなのかバリスタなのかの点。バーにはエスプレッソマシンがないことが多く、そのせいでしょう。前者にとってのエスプレッソコーヒーは副材料であり、後者にとっては主材料です。だからこそ、カクテルの表現はテイストだけに留まらない。その違いを探るのもまた一興です。