酷暑で注目「冷やし焼き芋」

 日本各地で観測史上最長の連続猛暑日を記録している今夏。火を使う料理はしたくないし、かといって外食のために出るのも辛い。年々厳しくなる夏の暑さは覚悟しているものの、今夏は生命に危険を及ぼすほどの酷暑。「冷たい食」は、今後ますます求められ、欠かせない夏のトレンドになることは間違いありません。
 そんな中、今年注目されたのは「冷やし焼き芋」。焼き芋は、熱々ホクホクのイメージが強い食品ですが、冷やして食べることで一層甘みが感じやすくなります。特に、焼き芋ブームの火付け役にもなった糖度が高い“紅はるか”や“安納芋”、“シルクスイート”などは、蜜を溜め込んだような、ねっとりとしたなめらかな舌触りで、冷やすとまるでクリームのような濃厚さ。加えて、冷やすことで、デンプンの一部が消化されにくいレジスタントスターチに変わり、ダイエットにも向くと言われています。元来さつま芋は、食物繊維を豊富に含む便秘改善にはもってこいの食品。甘くて冷たくて、太りにくくて美容にもいいとなれば、女性が放っておくはずがありません。
 暑さ対策を食品に求める生活者は多いようで、先日ラジオを聴いていたら、さまざまなアイデアが紹介されていました。野菜を冷凍してそのまま食べるとか、アイスを大人買いするとか、カットすいかを冷蔵庫に常備しておくとか。私は今年、火を使わない簡単な冷や汁の作り方を習得しました。桃はカットして冷凍。口に入れると、身体中にこもった熱を一気にクールダウンしてくれます。常温から冷蔵に、冷蔵から冷凍に。温度帯を下げる工夫で、酷暑にうれしい食品が新たに生まれるかもしれません。

新幹線から消えたもの

 JR東海が東海道新幹線の「のぞみ」と「ひかり」の車内ワゴン販売を2023年10月末で終了することを発表しました。またひとつ昭和の名残りが消えていくようで寂しく思います。
 静岡県西部で生まれ育った私が初めて東海道新幹線に乗ったのは、おそらく1970年の「大阪万博」に行ったとき。車内で撮った写真が残っているのですから、さぞや貴重な初体験だったのでしょう。当時、洗面所付近には冷水器が設置されていて、平たい小さな封筒型の紙コップが付いていました。これを開いて中に冷水器の水を注ぐのですが、今より揺れる車内。こぼさずに的中させるのは子どもには難しかったような。
 食堂車もありました。真っ白なテーブルクロスが掛けられ、銀色の一輪挿しに花が活けられていて、特別感と贅沢感が漂っていました。最後に利用したのは、90年代の終わり。2000年3月のダイヤ改正ですべての車両から姿を消したようです。
 冷水器が消えた理由は、ペットボトル入りの水を買う人が増えたから、食堂車がなくなったのは乗客が増え客席の確保が必要になったから、車内販売がなくなるのはコンビニ弁当を買って乗車する客が多くなったから。コンビニ弁当に比べると明らかに割高な駅弁。その点が敬遠されたのでしょうが、消費期限が長いコンビニ弁当にはない魅力が駅弁にはたくさんあります。現在、「こだま」では車内販売は行われていません。でも、各駅に止まり、ときに「のぞみ」や「ひかり」の通過待ちで数分間停車することも珍しくない「こだま」こそ、停車駅ごとに名物の駅弁を積み込んで車内販売すれば新幹線の旅がもっと楽しくなるし、そもそも、そこにこそ駅弁の価値があるのだと思います。

ついつい具だくさんになりがちなのは

 料理には食材のバランスが大切だと痛感するときがよくあります。
 例えば「ちらし寿司」。このコラムにも度々登場していますが、私は毎年、ひな祭りや木の芽の季節に合わせて、女子栄養大学に脈々と伝わる「ちらし寿司」を作ります。酢飯に、それぞれに味付けされたかんぴょう、しいたけ、れんこん、人参、穴子、三つ葉を混ぜ込み、上に、そぼろ、錦糸卵、エビ、さやえんどう、甘酢しょうが、海苔、桜の花の塩漬け、木の芽などを飾ります。このちらし寿司、意外にも“のんべえ”に評判がいいのです。なぜか。具材の種類が多いうえに、材料表の分量よりも多め多めに混ぜ込むからです。意外と塩気が強い酢飯に、しっかり調味されたたっぷりの具材。これはもう「ご飯もの」というより、「アテ」にぴったり。年々具材の量が多くなることにはたと気付いた今年。来年からは「ご飯もの」にリセットです。
 例えば「冷やし中華」。せっかく手作りするのだからと、具だくさんになりがちです。きゅうりにトマト、錦糸卵に焼き豚、くらげにエビ。肉被りですが、ハムも捨てがたい。紅しょうがはマスト。白ごまと刻み海苔も。具材が多い分、中華麺は控えて・・・などとやっていると、もはや「麺料理」ではなく「サラダ」に。酸味とごま油の風味が利いたしょうゆだれが、辛うじて冷やし中華であることをアピールしています。
 ふたつの料理の共通点は、ベースの炭水化物と多種な具材の組み合わせ。いろいろな具材を楽しみたい、リッチにしたい、ヘルシーにしたいといった欲求に加え、食材を中途半端に余らせてもという迷いも。
 「焼きそば」も、ついつい野菜を多くし過ぎて「野菜炒め(ソース味)・麺入り」になってしまうのが常。日々の外食では満足できないことを、手作りでリベンジしているのかも。

スパイスとハーブの話

 家庭に外食のエッセンスを持ち込みたいとき、活躍するのがスパイスやハーブです。特に夏の家飲みのアテ料理に欠かせないのが、クミンシードやカルダモン、カイエンペッパーなどクセが強いスパイスたち。肉に振りかけて焼くだけで、一気にエスニックな雰囲気を演出してくれます。ハーブも同様。バイマックルやレモングラスは、タイ料理のスープやカレーに欠かせません。
 一方、オリーブオイルに鶏肉と一緒にローズマリーとにんにくを漬け込んでおけば、いつでもイタリアンなローストチキンが楽しめますし、プロヴァンスのミックスハーブで下処理すれば、南仏の風が吹いてきます。
 和のスパイスの代表と言えば、七味唐辛子でしょうか。赤唐辛子、青のり(青さ)、山椒、黒ごま、白ごま、しそ、陳皮、麻の実、けしの実、しょうがなどの素材の中から、何をどのような配分で組み合わせるかはメーカーによって異なりますが、縁起担ぎの7種類はお決まりのようです。スパイスでもあり、ハーブでもあるのかなと思うのは、山椒です。“粉山椒”や“実山椒”はスパイス、若芽の“木の芽”や“花山椒”はハーブ。ほかに和素材でハーブのようなものを挙げるとしたら、“しそ”や“三つ葉”、“あさつき”でしょうか。いずれも、東南アジアやヨーロッパのハーブのように料理に強い風味を付けるために使われるというより、薬味やあしらいとしての役割が多いのが特徴です。
 スパイスを求めてヨーロッパ各国がアジア進出を計り、独自ルートの獲得に乗り出した大航海時代、ナツメグを巡って英国とオランダが凄惨な争いを繰り広げたスパイス戦争。料理の素材としてだけなく、殺菌剤や保存料、薬としてのスパイスやハーブの当時の価値は、現代の日本人には想像すらできません。