旅の大きな楽しみのひとつに、宿で出される食事があります。お任せで提供される料理は、何がいただけるのか期待でいっぱい。中でも会席料理は、お品書きに目を通すところから、おいしい時間が始まります。
先日お世話になった飛騨地方の宿の会席料理も、その土地ならではの食材がふんだんに使われていてとても楽しめました。食事は、「酒菜」と書かれた数々の料理から始まります。酒菜とは、のちに「肴」と呼ばれるようになる「酒と一緒に食べる菜(料理)」のこと。地酒と合わせていただきます。蒸し物、お造りと続き、台物は卓上の七輪で焼く飛騨牛。米は「飛騨こしひかり」の新米、止椀は「八丁みそ仕立て」。ご飯とみそ汁という食べ慣れた食がいつもと違う味で楽しめることも、旅の食事の醍醐味です。朝食は、七輪で焼きながらいただく朴葉みそと天然アマゴの塩焼き。清流に恵まれた山間の郷ならではの食のもてなしです。
近年、和食の朝食は、小皿で提供するスタイルが増えたような。以前宿泊した佐賀・唐津の宿の朝食。テーブルいっぱいに縦4列横7列に並べられた小皿の景色は圧巻でした。“おいしいものを少しずついろいろ食べたい”。そんな宿泊客のニーズに応えてのことでしょう。ただ私は、あまりにちまちましていて好きではありません。仕事柄、すべてが業務用食材に見えてくるのもやっかいです。盛り付けが簡単、数量が読めるからムダがない、メニューの変更がしやすい、何より手間がかからないと、小皿料理の都合の良さばかりが頭に浮かんでしまいます。
別の宿での朝食時。毎度のように業務用食材を無意識のうちに選別していたときのこと。“ウチの板長はすべて手作りするから、私たちも大変なんですよ”という仲居さんの何気ない一言に、なんと無駄で浅はかなことをしているのだろうと恥じ入った次第です。
月: 2023年4月
「割り酒」と「オンザロック」
あえてお酒を飲まないライフスタイル“ソバーキュリアス”を標榜する生活者が増えるなど、アルコールとの付き合い方が多様化している中、“割って飲む”スタイルもすっかり定着しているようです。
サントリーホールディングスは炭酸水で割って飲むことを前提に開発した、アルコール度数16%のビール“ビアボール”を、白菊酒造は同様に炭酸水で割って楽しむ日本酒“&Soda(アンドソーダ)”を、どちらも昨秋発売しました。一方、東京・吉祥寺の居酒屋「にほん酒や」では、音楽と一緒に日本酒を楽しむための新しい飲み方として日本酒を水で割って燗つけした“割り水燗”を提案しています。音楽イベントで燗酒を提供する際、音楽を聴きながら飲むのであれば、味わいやアルコールは軽い方がいいと感じて考案したそうで、“割り水燗”と音楽の可能性を探るイベントを日本各地で開催しています。
この割り酒人気。2010年にも似たような情報があります。ビールやロゼワイン、日本酒などで“オンザロック”に注目が集まっているという内容です。氷で冷やすことでビールはキリッと引き締まった味になる、甘口のワインは甘さが和らぎ飲みやすくなる、見た目も涼やかで、飲み口も軽やかになる。と、若い女性を中心に、お酒の新しい飲み方として人気になりました。
とは言え当時はまだ、「氷を入れたら薄まってしまい、本来の味が楽しめない。邪道だ」という声が中高年を中心に多かったと思います。私も同じです。「お酒は最高の状態に仕上げられるもの。薄めるなんて酒蔵に失礼だ」と思っていましたから。ワインや日本酒は当然そのままで、アルコール度数40度以上のウイスキーやジン、ラムもストレートをショットグラスで、が当たり前でした。
それから十数年が経ち、邪道もタブーもマナー違反も、すべての既成概念が取っ払われました。自分に合った飲み方で自由に楽しむー。それでいい、それがいいと、私でさえも思える時流になっています。
木の芽と山椒の話
春になりました。テラスの山椒の新芽が出るのを待って今年も「ちらし寿司」を作りました。新芽は、ちょっと気を抜くとすぐに大きく厚くなり、食感が悪くなります。機を逃さず、せっせと摘みます。
木の芽は、数枚入りパックが200~300円することもある高級品。収穫した木の芽は、洗ったらさっとゆでて冷水に取り、色止めをします。ラップの上に1枚1枚丁寧に並べ、包んで冷凍しておけば、いつでも爽やかな香りが楽しめます。
木の芽がたくさん収穫できたときは、すり鉢でよーくすって西京みそ、みりんと砂糖を合わせて「木の芽みそ」にします。下味を付けたたけのこやうど、イカを和えた、「木の芽和え」はきれいなグリーンで、器の中の新緑を堪能できます。
学生のときに習った木の芽みそは、「青寄せ」を加えていました。青寄せは、ほうれん草の葉と水、少しの塩をミキサーにかけ、漉した緑色の水を火にかけて煮立て、緑色の苔のようなものをすくい取ったもの。緑の着色料です。青寄せを使えば、木の芽が少ししか使えなくても、きれいな緑色が出せます。
先日、スーパーの野菜売り場で、葉を数枚付けたポット苗の木の芽を見ました。“毎年葉が摘めるならお得!”と思って買われる方もいらっしゃるでしょうが、山椒はとてもデリケートな植物。小さな苗のうちに葉を全部摘むと弱ってしまいます。2年ほどおいて、しっかり育った後に少しずつ収穫します。私もそれで、何度も失敗しています。
山椒の新芽に続いて、ぶどうの新芽も出てきました。我が家のテラスが、食べられる植物でまた賑やかになります。
パッケージで売れている、売れるかも商品
商品において、中身と同等か、時にはそれ以上に生活者を惹き付けるのは、パッケージです。形状は使いやすさや保存性を高め、デザインは心を動かします。「食のトレンド情報Excel」で取り上げる情報の中には、パッケージで売れている商品、売れるかもと思わせる商品がよく登場します。
米国で売れている商品は、LAのスタートアップ飲料メーカー「Liquid Death(リキッドデス)」が販売している缶入りミネラルウオーター“Liquid Death”です。ヘビーなアルコールを連想させるゴシックなドクロのデザインが、クラブやダンスイベントでアルコールやジャンキーな飲み物を飲みたくない、でもペットボトルでは・・・という若者のニーズにぴたりとはまり、3年目で早くも年商190億円、企業価値は1010億円に達し、今も急成長中です。
売れるかもと思わせる商品は、3月に発売された「富士甚醤油」の“ジップみそ やさしさ仕立て 九州あわせ”。生活者の「入れ替え不要」「保存しやすい」「取り出しやすい」「使用するごとに小さくなり場所をとらない」「ゴミがかさばらない」といったニーズに応えて開発されたパッケージです。簡単に開け閉めができるようジップを付け、高さは低めにして箸やスプーンでみそを取り出しやすくしています。残量に合わせてコンパクトになるので、冷蔵庫内でムダな場所を取りません。デザインは、パステルカラーを基調にかわいらしく仕上げ、でもみそであることはしっかり主張しています。
振り返れば みそは、昔から形態があまり変わらない食品のひとつです。カップ入りは場所を取るし、袋入りは詰め替えが手間で、底のほうに残ったみそを取ろうとすると、必ず手の甲にみそが付きます。これら、”みそあるある”のストレスを解消したパッケージです。
イタリアで大ヒットしている革新的なパッケージのRTS(ready to serve)、“NIO COCKTAILS(ニオカクテルズ)”が日本に上陸しました。「バーの外でも最高のカクテル体験を」というコンセプトの下、ローマの有名バーの創設者が監修して開発された商品です。デザインの国イタリアらしいおしゃれなデザインと充実した中身の両輪で、若者の心を掴んでいます。