2011年、節電の夏の食市場

 節電への協力が求められている今夏は、例年以上に暑さ対策が重要になっています。思い出されるのは、東日本大震災が起こった2011年の夏。現在よりもさらに強く節電が求められました。日差し対策にゴーヤーを栽培する生活者が急増したのもこの年。食市場では、さまざまな涼活戦略が展開されました。
 食品会社はこぞって、火を使わない、冷たくいただく商品を開発。冷やご飯にふりかけて冷たい水を注ぐだけのフリーズドライ商品や温めなくてもおいしいレトルトカレー、麺と具材をカップに入れて電子レンジで加熱し、水を注いで冷やし、その後水切りして、ジュレ状のソースやだしをかけていただく冷製カップ麺などが発売されました。
 外食市場では、涼しくなるドリンクメニューを強化する店舗が増加。冷たいだしをかけて食べる“天ぷら茶漬け”や“冷やし茶漬け風親子丼”、“冷やしおでん”や“冷やしカレー”など、さまざまなヒンヤリメニューが登場しました。
 スーパーは、暑くて火を使いたくない生活者の中食需要を見込んだ戦略を展開したほか、冷たいメニューの提案や電子レンジ商品の販促などを積極的に行いました。また売り場においては、お客様に涼しさを体感してもらえるよう、棚に敷くシートの色を従来の暖色系から水色に変え、見た目の涼しさを演出。そうめんなどをアレンジした「涼感メニュー」の提案型売り場を展開したほか、電子レンジで調理する商品を集めたコーナーを売り場ごとに設置しました。一方コンビニ各社は、節電で揚げ物調理を敬遠する生活者が増えていることに着目。スーパーの特売価格と同じ価格のトンカツを発売したり、揚げ物の取り扱い店舗を増強したり。利益率が高い惣菜に力を入れて収益を高めるとともに、スーパーから「おかず需要」を奪う作戦に乗り出しました。

土用の丑の日。蒲焼き風商品はいかが

 今夏、土用の丑の日は7/23と8/4の2回です。日本で出回るうなぎのほとんどは、養殖物です。冬から春にかけて捕獲した天然の稚魚、シラスウナギを養殖池で育てます。近年は、2020年をピークに稚魚の捕獲量は年々減少傾向。今年は、18年よりも少なく、うなぎの価格が高騰するのは確実です。
 毎年、うなぎの蒲焼きを摸した商品の情報が多くなるのがこの時期です。Mizkanは、「金のつぶ うな重納豆 3P」を発売しました。蒲焼きの風味を生かしたたれが付いている商品です。同社は昨年も同様の商品をエリア限定で発売しています。今年は、北海道、九州、沖縄を除く全国で発売しましたから、昨年の手応えが良かったのでしょう。
 岡山のナショナルデパートは、「特濃うなぎバター」の先行予約をECサイトで開始しました。うなぎの蒲焼きのうま味を濃縮した自家製ペーストを国産フレッシュバターに練り込んで成形。山椒バターを重ね、最後にうなぎの蒲焼きをトッピングした食べるバターです。熱々のご飯にのせ、溶け出すバターとのマッチングを楽しむのが一番のおすすめといいます。
 大学生協のコンビニの商品開発をお手伝いしていた2018年、ご飯の上に蒲焼きのたれだけをかけた「土用のたれめし198円(税込)」を発売しました。たれをそのままかけたのでは、蒲焼き丼風にはなりません。炭火で焼いた蒲焼きの香りとうま味が浸み込んだようなたれでないと。そんな業務用商品を見つけるのに苦労しました。

ウクライナ料理とロシア料理のこと

 ユネスコは7/1、ウクライナを代表する料理「ボルシチ」を無形文化遺産に登録することを決めました。「ボルシチ」はロシアでも広く親しまれている料理ですから、ロシア政府はもちろん反発。ウクライナ国民は、ほんの少しでしょうが、溜飲を下げることができたのではと思います。
 「ボルシチ」のように、ロシア料理として日本に紹介され、実はウクライナ発祥かもと思わせる料理が、その名の通り「キエフ風カツレツ」です。
 私が、「キエフ風カツレツ」という料理を初めて知ったのは、高校生の頃。プロ向けの料理本です。目の細かなパン粉衣に包まれたラグビーボールのようなそれは、いかにも洋風料理の見た目。しかも、お皿の上で半分にカットされた断面から熱せられたバターが溶け出しているビジュアルは、まさに垂涎モノです。ロシア料理などというものが、身の回りにはもちろん、テレビの中にも存在しない時代でした。
 大学生になり、初めて渋谷のロシア料理店「ロゴスキー」を訪れたときは、狂喜乱舞。“赤い料理”をおっかなびっくりいただいた「ボルシチ」、名前の響きがロシアっぽいと思った「ピロシキ」、パンの帽子を被ったマグカップが可愛い「つぼ焼き」、紅茶にジャム?と驚いた「ロシアンティー」。因みに、ウクライナではジャムを紅茶に入れますが、ロシアでは紅茶が冷めるのを嫌ってジャムを舐めながら紅茶を飲むのだそう。ということは、日本の「ロシアンティー」も、ウクライナ発祥ということになりますね。

シロップをかけただけ。シンプルなかき氷が大好きです

 気温が30℃を超えると氷菓やかき氷が売れるようになると言われています。日本各地が酷暑に見舞われた6月最終週。例年より早めに、かき氷をメニューに掲げる飲食店が増えると思います。
 私も、かき氷大好きです。子どもの頃、夏のおこづかいはほぼ、駄菓子屋のかき氷に消えました。大きなかき氷機に氷屋から仕入れた四角い透明な氷を載せ、大きな歯車を勢いよく回します。シャッ、シャッという氷が削られる音を聞いているだけで涼しくなったような気がしたものです。シロップは、いちごとレモンとメロン。練乳や小豆、ましてやアイスクリームやフルーツといったトッピングなどありません。ただシロップをかけただけのシンプルなかき氷。私は、それが一番好きです。
 が、東京のど真ん中には、そのようなかき氷を食べさせてくれる店はありません。シロップではなく果肉たっぷりのフルーツソース、練乳はエスプーマ仕立てと凝りに凝っています。贅沢にフルーツをのせたり、マスカロポーネのソースをかけたり。天然水で作られた氷や自然の寒さだけで作られた天然氷のやわらかで繊細な舌触りは、若い女性たちを魅了しています。当然値段は800円以上。ランチより高いカフェもあります。
 駄菓子屋のかき氷には、遊びながら食べられる工夫がありました。削られていく氷を小ぶりな皿で受け、山になったら真ん中に割り箸をのせ、その上に再び氷を削ります。山になったかき氷を、同じ大きさの皿で上からぎゅうっと押すと・・・。でき上がるのは、かき氷のペロペロキャンディ。「いちごとレモン」と2面の味をオーダーすると、おばさんがシロップをかけてくれます。 “ワンハンドかき氷”。駄菓子屋のおばさんは敏腕マーケターです。