“なくてもいいですか”と、ザワつくコメント

 情報提供番組で料理を紹介する場面がよくあります。見ていて気になるのは、出演者の“なくてもいいですか”発言。先日も、ペルー料理店のシェフがスタジオで調理を披露。オレガノを使うシーンでオレガノが家にあるかないかの話題になり、“なくてもいいですか”がまたも飛び出したのです。南米料理でハーブやスパイスを省くなんてありえません。
 学生の時、女子栄養大学主催の「子ども料理教室」でお手伝いをしていました。揚げ物の衣で薄力粉に片栗粉を合わせる段になったとき、保護者から“片栗粉なくてもいいですか”の質問が。先生はきっぱりと“高いものではありません。買ってください”とおっしゃいました。その通りだと思います。せっかく子どもに、安全で、失敗しない、おいしい料理の作り方を教えているのに、なぜそんなところではしょるのでしょうか。
 NHKエデュケーショナルの「みんなのきょうの料理」。作った人のコメント欄を読むと頻繁にザワッとします。“○○がなかったので、××を使いました”“△△がなかったので入れませんでした”“麺つゆで味付けしました”などなど。実に自由奔放。もはや別の料理でしょと突っ込みたくなる投稿も少なくありません。“おいしかったから今回はちょっとアレンジを加えてみました”とか、“塩味が我が家にはやや強かったので塩を減らしました”とかなら理解できるのですが、端から前向きとは言い難いアレンジを加えるのはいかがなものか。せっかくプロが研究を重ねたレシピを伝授してくれているのです。できるだけその通りに作って、思いがけない食材の組み合わせに驚いたり、味わったことのないおいしさを体験したりしたほうが得です。調理の世界が拡がる機会を無にしているようで、もったいないと思うのです。

ゴールデンウイークの食事報告

  ゴールデンウイーク。長いお休み、我が家では、何をしようかと何を食べようかとは、同じくらい大切なテーマです。朝はぐっと軽めにして昼下がりから夕食飲みを始めるのが今年のトレンドでした。
 初日は、朝から「栄大ちらし」を仕込みました。以前にもコラムで書きましたが、「初心忘るべからず」の思いで、年に1度、必ず春に作る母校に伝わる料理です。朝、包丁を研ぎ、大鍋いっぱいにだしを取ります。寿司桶を納戸から持ち出し、しゃもじと布巾を揃え、大きな団扇を用意します。かんぴょう、しいたけ、れんこん、人参、アナゴ、そぼろ、錦糸卵、芝エビ、さやえんどう、甘酢しょうが、三つ葉の調理が済んだら、刻み海苔と桜の花の塩漬けを用意して、ベランダの山椒の葉を摘みます。が、時すでに遅し。「木の芽」から成長し「木の葉」になりかけていましたが、仕方ありません。
 2日めは、10年前、何かのきっかけで購入した「トルティーヤプレス」をデビューさせたい一心での「手巻きトルティーヤ」。とうもろこしの粉に水を加えて生地を作り、丸めて、トルティーヤプレスで円形に押し広げます。麺棒で広げるよりもきれいな円になり、何枚かプレスしていくうちにコツがつかめます。といっても、この作業は夫の担当ですが。巻く具材は、スパイシーな味付けのビーフとポーク、ひよこ豆とレンズ豆のサラダ、ワカモーレ、トマトのサラダとレタス&ハーブです。
 3日めは、ステーキの食べ比べ。神戸牛、宮崎牛、佐賀牛、但馬牛など6種類の牛肉の食べ比べセットをいただいたのです。自分で焼きながら食べ比べても“おいしいね”しか出て来ず。加えて連休中で気が緩んでいるから、仕事のテイスティングのような真剣さはありません。
 そんな風にして日は過ぎ、最後は、手打ちのそばとうどんをはしごしました。

新宿の「ガルロチ」。ショーレストランとして再開

 新型コロナウイルスの影響で、多くの飲食店が休業や廃業に追い込まれました。ショーレストランも同様です。
 新宿伊勢丹会館の6階に、フラメンコのショーを見ながら食事ができるタブラオがあります。おそらく東京で最も面積が広く、歴史あるタブラオです。前身は「エル・フラメンコ」。1967年開業です。私は大学生のときに知人に連れられ、初めて本場のフラメンコをここで見ました。その後、フラメンコを習うことになる最初のきっかけです。
 「エル・フラメンコ」は2016年、フラメンコを愛するファンに惜しまれつつ閉店。その後、「タブラオ・フラメンコ・ガルロチ」と名前を変えて再スタートしたのですが、コロナ禍で2020年に営業を終了してしまいます。何とか、日本におけるフラメンコの老舗を守りたいと立ち上がった現オーナーがクラウドファンディングで資金を集め、フラメンコだけでなくさまざまなエンターテインメントが楽しめる場として「ガルロチ」と改名。5/3に再開を果たしたのです。
 その日私は「ガルロチ」に行き、スペインから招聘されたアーティストたちの華やかで楽しいフラメンコを堪能しました。
 日本は、本場スペインに次いでフラメンコ愛好者が多い国です。とはいえ、絶頂期の3分の1にまでその数は減少しています。「ガルロチ」をタブラオではなくショーレストランとして再開した意図も充分に理解できます。決してラクではないショーレストランを再開してくれた方々に感謝すると共に、一(いち)フラメンコファンとして、タブラオの火を消さないよう、「ガルロチ」にもせっせと通わなくてはと思う次第です。

“カタカナスシ”と“客が育てるセカンドライン”

 最近の寿司市場。流行りは、“カタカナスシ”と称されるカジュアルな寿司酒場と、“客が育てる”高級店のセカンドラインです。
 先日、前者の先駆けとも言える「スシエビス 恵比寿本店」にふらりと立ち寄りました。風変りなメニューがウリとの話は聞いていました。カウンターに座ると、目の前には大きな蒸し器。ちょっと変わった“小籠包”が人気だとか。おすすめは、“名物!エビ・カニ合戦”。カニの甲羅に叩いたエビとズワイガニ、イクラとうずら卵が盛り付けてあり、それをよくかき混ぜて甲羅の下に並べられたカニ味噌の細巻きにかけていただきます。“とろける鰻バター”は、うなぎの握りの上に、スタッフがバターを削りながらたっぷりかけてくれる、動画向きの一品。まさにSNS映えと気軽さがウリの「寿司居酒屋」です。接客も明るくて親切なのですが、オ―ダーは完全スマホ経由。カウンターに座っても、板さんとのやり取りはありません。
 後者の代表格は、4/23にオープンした立ち食い寿司店「鮨 銀座おのでら 登龍門」です。「銀座おのでら」が、“お客様に育てていただく鮨店”をコンセプトに立ち上げた店。ポストコロナのさらなる世界展開に向けて、実力のある寿司職人を育てていくことが目的です。ネタは総本店と同じものを使用しながら、価格は若手職人の“勉強代”としてよりリーズナブルに設定していると言います。
 これに先立ち昨年10月にオープンした「廻転鮨 銀座おのでら本店」(東京・表参道)。「銀座おのでら」でも提供されている「やま幸」の本マグロを目当てに出掛けました。その時付いてくれた板さんに「どのくらいお寿司握ってるの?」と聞いたら、「6ヵ月です」とのこと。このプロジェクト、その時既に始まっていたのですね。