小袋の話

 ハンバーガー店でポテトをオーダーするとき、日本では「ケチャップください」と言わなければ、トマトケチャップは付いてきません。私は、“フライドポテトにはケチャップ派”なので必ず、しかも2つお願いしますが、米国では何も言わなくても付けてくれます。しかも一掴み。

 その米国で今、トマトケチャップの小袋が品薄になっているとか。新型コロナウイルス禍で持ち帰りやデリバリーの需要が急増したためで、トマトケチャップ最大手のクラフト・ハインツは、急遽増産に乗り出したそうです。トマトケチャップは彼の地を代表する調味料。フライドポテトにつけるだけでなく、ハンバーガーに“追いケチャップ”をする人も珍しくなく、使用量も日本とは比較になりません。

 日本では、しょうがの小袋が足りなくなっているそうです。牛丼に付いてくる紅しょうが、寿司に付いてくるガリなどです。理由は米国と同じ。ただこちらの場合は、小規模の工場で製造されているため、増産のための設備をすぐに整えることもできず、かつコロナ後を見据えると設備投資すべきか否かは悩むところです。

 小袋と言えば、最近疑問に思っていることがひとつ。セブンイレブンの場合、チルドの「もっちり自家製焼き餃子」には「酢醬油」と「ラー油」が付いているのに、同じくチルドの「焼売」には何も付いてきません。なぜでしょう。焼売にはしょうゆと辛子をつけたいので、会社にミニサイズのしょうゆを保管し、納豆に付いている辛子の小袋を集めています。納豆と言えば、私は“納豆に付いているたれは使わない派”。生活圏にたれが付いていない納豆を売っている店がなく、捨てられないたれの小袋が冷蔵庫の中で山になっています。

小西先生からの贅沢な春のお土産

 毎年春、母校であり客員教授を仰せつかっている女子栄養大学(以下栄大)に、特別講義をするために伺います。昨年はオンライン講義で行くことができず、2年ぶりです。

 その際、必ず立ち寄るのが調理学研究室(以下調研)です。私は本心、栄養学よりも調理学が学びたくて栄大に入学し、入学式を待たずに調研の扉を叩きました。それからは、調研に入り浸り。先生に「あなた授業はいいの」と心配されるほど。そんな風に過ごしたからか、年に一度調研に行くと、故郷に帰って来たような思いがします。もちろん、当時大変お世話になった高橋先生は教授になった後、退職していらっしゃいますし、助手だった松田先生は教授になられています。現在の准教授や講師の先生方は、皆私の後輩ですが、私には先生としか思えないのは、学生時代に染み込んだ人間関係の所以です。

 高橋教授退職後、佐賀大学から栄大に教授としていらっしゃったのが小西史子先生です。小西先生は、私にいつもお土産をくださいます。「講義が終わったら、必ず戻って来てくださいね」のお言葉は、私には「おいしいお土産、用意してますよ」と聞こえます。そして今回も。

 ふきとわらびの煮物、ほうれん草の胡麻よごし、筑前煮、筍とふきのちらし寿司には海老と錦糸卵、木の芽が散らされ、まさに春満開のお弁当です。食べ慣れた落ち着く味、「年寄りの煮物です」という先生のお言葉通りのやさしい硬さ。それらのお料理が、先生が日々の折々に取っておかれたのでしょう。可愛らしいお菓子の紙箱にラップを敷いて盛り付けられているのです。これ以上の贅沢はあるでしょうか。家に帰り、着替えは後回し、まずはふきの煮物をつまみ食い。至福のひとときでした。

年々減少する仕送りと大学生協

 4/5、2020年4月に首都圏の私立大学に入学した学生の平均仕送り額が発表されました。その額、過去最低の8万2400円。ピークだった1994年の12万4900円から年々減少し、3分の2以下になっています。一方、仕送りから家賃を引いた1日当たりの生活費は607円。こちらも過去最低です。もちろん607円では生活できませんから、奨学金を申請したり、飲食店やコンビニのアルバイトをしたりするなどして、生活費を、人によっては学費をも捻出するのですが、新型コロナウイルス下ではそれも適いません。学生生活が続けられず、休学、退学する学生たちが今後も増えるでしょう。

 私は、十数年にわたって、大学生協の食堂やコンビニのコンサルティングをしてきました。学生たちに、おいしくて栄養のあるものをたくさん食べて欲しいという思いは、皆一緒です。が、そこに大きく立ちはだかるのが、学生たちの懐具合でした。大学生協の使命は、学生たちの食生活を守ること。そのためには、街場の食より低価格で提供しなくてはなりません。年々価格が上がっているのは食材も同じ。スケールメリットを期待して全国で食材を統一したり、海外から安価な食材を入手したり、食品会社に協力を求めて生協用の加工食品を製造してもらったり。皆さん、挑戦と苦慮を繰り返していました。

 そんな大学生協も、キャンパスに学生たちがいなくなり、この1年は大変だったと思います。今春から大学も、少しずつ通常に戻りつつあるようです。苦学する学生たちのために、大学生協の役割はますます大きくなり、期待は高まるばかりだと思います。

春キャベツとアンチョビのパスタ

 春キャベツが出回っています。淡緑色と淡黄色のコントラスト、縮れたようなウェーブがかかっていて、空気を含んだ尖がり頭。私の、春キャベツのイメージです。葉は軟らかでみずみずしくて、“若い!”という言葉がぴったり。私はずっと昔、春の早い時期に収穫するから葉が軟らかく、時間が経つにつれて堅くなると思っていました。若葉がそうだからです。でも考えれば分かること。キャベツは木の葉ではないし、畑でじっと収穫の順番を待っているわけでもありません。秋に種をまいて3~5月に収穫するのが春キャベツ、夏に種をまいて11~3月に食べ頃を迎えるのが冬キャベツです。この間に、群馬県嬬恋村など冷涼な高原で栽培される高原キャベツもあります。

 春キャベツは軟らかく水分が多いので、サラダや和え物、サンドイッチの具など生でおいしくいただけますし、火の通りも早いのでスープ煮にするなど手軽に楽しめます。でも春キャベツと言えば、私の場合はやっぱり「キャベツとアンチョビのパスタ」です。

 30年前、東京・西麻布に「リストランテ ダノイ」がオープンしました。小野清彦シェフが作る料理はどれもおいしくて温かくて、すぐに常連に。そこでこの料理をいただいたのです。今ではレシピサイトや料理番組で紹介されていますが、当時はダノイを代表する名物メニューでした。キャベツは通年野菜ですから、いつ行っても食べられるのですが、春キャベツが出回ると、縮れたような軟らかな葉がパスタにからまって、イタリアンらしいビジュアルになるのです。もちろん、おいしさも格別です。ダノイは今はなく、自分で作らなくてはなりません。スーパーで春キャベツを見つけると、その足でアンチョビ売り場に向かいます。