久しぶりに旧知のシェフの料理をいただきに、五反田のフレンチレストラン「ヌ・キ・テパ」に行きました。シェフの田辺氏とは、かれこれ30年のお付き合いです。
「ヌ・キ・テパ」は、ドイツ大使の邸宅として使われていた一軒家を改装したおしゃれな空間ですが、田辺シェフが独立して初めてオープンした恵比寿の「あ・た・ごおる」は、居酒屋の居抜き物件。カウンターと小さなテーブル席が4つくらいの小さな店でした。厨房はカウンターの中だけです。
毎週、週によっては毎日のように通っていただけに、思い出も数知れず。食通には有名な店だっただけに連日大賑わいで、雨の中、ビールケースを椅子代わりに、ビニール傘をさしながら食べたこともありました。料理本の撮影をしたときのこと、田辺シェフがオーブン焼きをするというので、ちょっと大きめのオーバル型のグラタン皿を用意しました。すると田辺シェフが「これオーブンに入らないよ」と言うのです。オーブンに入らないなんてと思い、カウンターを覗いてみると、小さな家庭用のオーブントースターが。「だって元は居酒屋なんだから、オーブンなんてないよ。いつもこれで焼いてんだから」とあっけらかん。驚くやら、おかしいやら。田辺シェフらしいエピソードとして忘れられません。
田辺シェフは、肉は料理しません。素材は魚介と野菜のみ。そして土です。指定した場所からおいしそうな(?)土を掘り出し、それをオーブンで焼いて殺菌。水で煮出して土のブイヨンを作ります。これがソースになったりデザートになったり。おいしい土はおいしい水を作り、おいしい野菜を育てます。それが土を料理に使う理由なのだそうです。