東京は梅雨に入りました。料理雑誌には、梅漬けや新しょうが、らっきょうなど漬け物のレシピが登場し、初夏の訪れを色彩で教えてくれます。梅はフレッシュなグリーン、新しょうがもらっきょうも赤ちゃんのようにふっくらとしていてみずみずしくて真っ白です。梅は、一晩水につけてアクを抜き、タオルでやさしく水けを拭いて、ひとつずつ竹串でヘタを取って・・・と、時間をかけた丁寧な仕事が続きます。この作業は、よく「梅仕事」とよばれます。
秋、空気が乾燥してくると、私は部屋に物干し竿を渡し、着物を干し始めます。いわゆる、虫干しです。また着物は、秋から春までは袷(あわせ)を、初夏から夏は上布や紗、絽などの薄物を着ます。ですから、衣替えの時に半襟を洗って付け替えたり、ほつれがあれば繕ったりします。そんな作業を、私は「着物仕事」とよび、その時間をとても大切にしています。
かつての日本においては、梅漬けもらっきょう漬けも、着物の虫干しも繕いも、すべて女性の“せねばならない仕事”だったはずです。それが今は、しなくてもいい趣味的作業に近くなっています。季節を楽しみながら丁寧な時間を過ごした昔の人の豊かさ――。そこに憧れがあるから、「仕事」という言葉を寄せたくなるのかな、なんて思うのです。