猛暑の夏で売れるもの

 梅雨明け前から猛暑日が続き、私はすでに夏バテ気味です。夏はしっかり暑く、冬はしっかり寒いほうが経済にはよいと言いますが、こう暑くては行動も抑え気味。私に限っては、日本経済に余り貢献できていないように思います。
 さて猛暑の夏に売れる食品と言えば、「アイス・かき氷」「冷たい麺類」「茶系の飲み物や水」が定番。近年は、熱中症に対する予防意識が高まると共に高齢者ユーザーが加わって「スポーツ飲料」もよく売れています。また、漬け物も猛暑の夏には人気です。火を使わずしておかずになり、汗で失われる塩分補給に役立ち、野菜のビタミンやカリウムも摂取できます。
 外出先としては、「ショッピングモール」や「スーパー・コンビニ」「カフェ」など、エアコンが利いた場所が人気スポットになります。また初乗り料金が730円から410円に変更されて初めての夏を迎えた都内のタクシー業界も、猛暑に加え、ゲリラ豪雨の影響を受けて好調です。
 意外なものでは、使い捨てカイロが売れるそうです。キンキンに冷やされたオフィスで働く女性たちが暖を取るために求めます。同じくエアコン対策で売れているのが、加湿機能付きの製品です。空気が乾燥する冬に使う加湿器ですが、夏も、エアコンに一日当たっていると乾燥しやすいという理由から利用する生活者が増えていると言います。もうひとつ。大幸薬品の「正露丸」も夏にはよく売れます。水分や冷たい食品の取り過ぎや、エアコンが利いた部屋で就寝することでお腹が冷えるなど、夏特有の理由で下痢の症状を起こす生活者が増えるのが理由です。

情報格差のない日本にトレンドの格差なし

 先週、講演のため仙台に伺いました。久しぶりの仙台は、駅前が様変わり。今年6月にS-PAL東館がオープンし、それに隣接してホテルメトロポリタン仙台も開業しました。
 今、外食店の中でひときわ人気なのが、仙台初上陸のコリアンデザートカフェ「ソルビン(SULBING)」。ゴージャスなかき氷がウリの店です。7/7のオープン以来、連日行列ができていたそう。私が行ったのは平日の12時頃。並んでいる人は10人程度でしたが、おそらく休日には長い列ができるのでしょう。入店を待つお客様へのインフォメーションの立て札が、屋外にもありました。案内してくれた方によると、ちょっと前まで、平日でももっと並んでいたとか。
 福岡、大阪、名古屋など、東京以外の都市で講演をしたとき、ほぼ100%の確率で質問されるのが、「東京で流行していても、地方じゃあ・・・のでは?」という内容。この・・・の部分は、“流行らない”“流行るのがかなり遅い”など、トレンドに対して概ね消極的な意見です。私の答えは決まっています。「日本に情報格差はありません。東京の女性が食べてみたいと思うものは、その女性がどこに住んでいようと食べてみたいのです。それが提供されていないだけです」。
 仙台に、ハワイのパンケーキ専門店「「Eggs ‘n Things」がオープンしたのは、2016年12月17日。東京原宿に日本1号点がオープンした2010年3月から遅れること約7年です。やはりオープン当初は行列が出来たそうですが、今は静かです。
 トレンドは生もの。鮮度が大切です。テレビやネットで、情報は日本中を巡ります。待って待ってやっと食べられるときには、情報鮮度はかなり落ちています。このタイムラグが、地方初上陸の魅力の賞味期限を縮めているのだと思います。

パウチ惣菜市場が伸長しています

 夕食の献立やお弁当作りで、副菜があと一品欲しいとき、スーパーの惣菜はとても助かる存在です。野菜の炊き合わせやかぼちゃの煮物、練りサラダなど、手間のかかる料理がそこそこの値段で用意できます。時間がなくてスーパーに行けないとき、助かるのがコンビニのパウチ惣菜です。スーパーの惣菜とよく似た品揃え。量の多寡は選べませんが、おいしさは変わりません。
 最近、このパウチ惣菜の市場規模が急拡大しているのをご存知ですか。2014年には、前年比9割増の4700億円超まで伸長しました。しかもこれは、チルドの商品のみを対象とした数字。常温の商品を加えると5000億円を突破していると推定されています。
 食品メーカーも、パウチ惣菜市場に次々と参入しています。明治やマルハニチロなどの大手から、カネハツ、ヤマザキといった中堅まで。料理の幅も和洋中と広がりを見せています。特にマルハニチロのロングライフチルド惣菜「至福の一皿」シリーズは、レストランの料理のようなラインナップ。和惣菜が多いパウチ惣菜の中で異彩を放ちます。加えて、トレー式なので、皿に盛り替える必要がありません。
 パウチ惣菜のおいしさと使い勝手の良さが認知され存在感が高まるにつれて、日配品の惣菜との垣根がなくなりつつあると実感しています。保存が利いて、保管にスペースを取らない点は、日配品より優れていると思います。日配とパウチ、それぞれの特性に合わせてよりふさわしい料理を選ぶなどの商品化を進めれば両者の共存は可能であり、相乗効果によって惣菜売り場はさらに活性化すると思います。

回転寿司でシャリを残す人が増えています

 回転寿司店で、寿司のネタだけを食べてシャリを残す人が増えています。SNSには、10貫分ほどのシャリが山になった画像がいくつも。書き込みには、糖質制限ダイエットのため、いろいろな種類の寿司を食べたいのにシャリでお腹がすぐにいっぱいになってしまうからといった理由が。「シャリ少なめで」とオーダーできればいいのですが、タッチパネルでオーダーする店舗では、それもできません。男性の場合、酒のつまみに刺身が食べたいのにメニューにないからという理由も。これに対応して、ネタだけを乗せた皿をつまみ代わりに提供し始めた店もあります。
 シャリがない寿司は、そもそも寿司ではありませんし、食文化やマナーの点からも反対です。が、フードロスを考えれば、それなりの対応をすることも必要なのかもしれません。わさび抜きが指定できるように、シャリ少なめ、シャリ抜きなどのオーダーが、タッチパネルでも可能なシステムに変更すべきでしょう。とは言え、シャリを機械で成型している店舗や冷凍品を仕入れている店舗では、シャリの量の調整はできません。
 近年、回転寿司店からしょうゆ小皿がなくなりつつあります。お客様が寿司に直接しょうゆをかけるからです。これも寿司の食べ方ではありません。
 はなから、「回転寿司は、寿司ではない」と断言する方もいらっしゃるでしょう。誰もが安く食を楽しめる世の中だからこそ、カタチやマナーがくずれていくとも言えます。納得はしませんが、仕方のないことと割切るしかないのでしょうか。

人手不足に悩む外食企業の働き方改革 ?

 人手不足が深刻な外食業界において、柔軟な対応で働き手を確保する企業が増えています。
 居酒屋「甘太郎」や焼肉店「牛角」を展開する「コロワイド」は6月から、通常、正社員になるのに週40時間の労働が必要なところ、最短20時間とする限定社員制度を導入しました。福利厚生が得られ、店長にもなれるほか、夏や冬の賞与も支給されます。ファミリーレストランの「すかいらーく」は、その日の繁閑に応じて労働時間を4時間から12時間までの5つのパターンから自由に選べる制度を設けました。組み合わせによっては、週休4日も可能といいます。「ロイヤルホールディングス」も短時間勤務の導入を検討しています。 「吉野家ホールディングス」は今春、労働時間を自由に設定できる地域限定社員の制度を地方子会社にも広げました。
 勤務地を融通させている会社もあります。「サイゼリア」は、1時間以内に通勤可能な5つの店舗から勤務地を決めることができるようにしています。また「マクドナルド」は、通称“わがまま応募”という求人サイト“おまかせ!マック”を開設。「家から10分の距離で1日3時間。土日は働けない」などの条件を入力すれば、会社が希望に合う店舗を探してマッチングしてくれます。
 外食店やファストフードの4月のアルバイト・パートの募集時平均時給は、三大都市圏で過去最高額の970円になり、人手不足は人件費の高騰に直結しています。労働時間と勤務地を融通させることで働き手を確保しつつ、人件費の高騰を抑えたい。大手外食企業の苦悩は、まだまだ続きそうです。

行事食として定着するでしょうか。“夏越しごはん”

 “夏越し(なごし)ごはん”。聞きなれない言葉が、外食店やスーパーを中心に広がっています。昨年から“夏越ごはん”の提供を始めた「やよい軒」。今年は、提供店舗数を増やして実施しています。大手スーパーの「マルエツ」も今週末から、惣菜売り場で“夏越ごはん”を販売する予定です。
 “夏越しごはん”の元となるのは、1年の前半の最終日にあたる6月30日に行われる大祓の神事“夏越の祓(なごしのはらえ)”。神社では、茅や藁で作った大きな輪を鳥居の下などに設置。人々は、“茅の輪(ちのわ)くぐり”を行って半年分の罪や穢れを祓い、残りの半年間の無病息災を祈ります。“夏越ごはん”は、この神事に合わせた新しい行事食で、米穀機構が、米の消費拡大を狙って2015年から提唱したものです。
 “夏越しごはん”は、“夏越の祓”の茅の輪の由来となった、蘇民将来が素盞嗚尊(すさのおのみこと)を粟飯でもてなしたという伝承にならった粟、邪気を祓う豆などの雑穀の入ったごはんに、茅の輪をイメージした旬の夏野菜の丸いかき揚げをのせ、百邪を防ぐといわれるしょうがを効かせたさっぱりおろしだれをかけたもの(米穀機構HPより)と言います。それに倣い、市場では、雑穀ごはんにかき揚げを合わせたメニューや惣菜が多いようです。
 行事や祭事、記念日などを食の需要に取り組む動きは活発で、団体やメーカー、小売業などから、数多く提案されます。でも認知度が高まり、定着するものは余りありません。雑穀と、茅の輪をイメージした丸ものの組み合わせを外さなければよいのなら、便乗できる食材や食品の幅はぐんと広がります。行事や祭事が少ない夏の“夏越しごはん”。新行事食として定着するのか、楽しみです。

食べ放題で起死回生? かっぱ寿司

 「かっぱ寿司」が6/13、7/14までの期間限定食べ放題を始めた日、テレビのワイドショーは、この情報をレポーター入りで報道していました。食べ放題自体は珍しくないし、実施店舗は346店舗中(4/9現在)20店舗のみ、しかも平日の14-17時という行きづらい時間帯のみの実施です。それほどの話題なの?と思っていました。時間制限は70分、代金はドリンクバー付きで、男性1580円(税抜き)、女性が1380円(同)です。食べ放題メニューは、寿司は100円の商品が中心ですが、枝豆やたこ焼きなどの一品物、みそ汁やラーメンなどのお椀・麺、プリンやチーズケーキなどのデザートは、比較的幅広く選ぶことができます。来店したお客様からは、“食べたい(価格が)高めの寿司が食べられない”“もともと100円と安いから、得するのためには相当食べなくてはならない”などの声が挙がっていました。14時過ぎにはお客様を制限した店もあり、14時前に行った人でも2時間待ちという盛況ぶりです。
 カッパ寿司の親会社は、コロワイド。すでに3社目の親会社です。回転寿司業界は「はま寿司」「スシロー」「くら寿司」の3強が競い合う激戦区。かつては業界トップだった「かっぱ寿司」ですが、ここ数年不振にあえいでいます。合理化を優先させて原材料費を削ったことで客離れが進み、「安かろう、まずかろう」のイメージを定着させてしまったようです。加えて、上質感を演出するためにカッパのロゴマークを変更。このことも、お客様に分かりづらさを生んだのだと思います。
 今後は、品質の向上に力点を置いて、安っぽいイメージの払しょくを図るといいます。今回の食べ放題で、久しぶりに「かっぱ寿司」に来たというお客様の中には、“おいしくなった”という感想を持つ人もいるようで、その意味では奏功したのではないでしょうか。

6月は「梅仕事」。「仕事」という言葉が好きです

 東京は梅雨に入りました。料理雑誌には、梅漬けや新しょうが、らっきょうなど漬け物のレシピが登場し、初夏の訪れを色彩で教えてくれます。梅はフレッシュなグリーン、新しょうがもらっきょうも赤ちゃんのようにふっくらとしていてみずみずしくて真っ白です。梅は、一晩水につけてアクを抜き、タオルでやさしく水けを拭いて、ひとつずつ竹串でヘタを取って・・・と、時間をかけた丁寧な仕事が続きます。この作業は、よく「梅仕事」とよばれます。
 秋、空気が乾燥してくると、私は部屋に物干し竿を渡し、着物を干し始めます。いわゆる、虫干しです。また着物は、秋から春までは袷(あわせ)を、初夏から夏は上布や紗、絽などの薄物を着ます。ですから、衣替えの時に半襟を洗って付け替えたり、ほつれがあれば繕ったりします。そんな作業を、私は「着物仕事」とよび、その時間をとても大切にしています。
 かつての日本においては、梅漬けもらっきょう漬けも、着物の虫干しも繕いも、すべて女性の“せねばならない仕事”だったはずです。それが今は、しなくてもいい趣味的作業に近くなっています。季節を楽しみながら丁寧な時間を過ごした昔の人の豊かさ――。そこに憧れがあるから、「仕事」という言葉を寄せたくなるのかな、なんて思うのです。

老若男女等しく家事能力が必要な時代です

 経済力より家事・育児能力を重視する――。女性が結婚相手に求める条件を日本経済新聞が調査した結果、41.7%の女性がそう答え、初めて、経済力重視派を約4ポイント上回りました。「共働きなので経済力は求めない。自分が稼げる環境を整えるには相手の家事・育児能力の方が重要」とか、「家事・育児において自立心がない人とは共働きは不可能と感じる」といった声が多く寄せられたそうです。
 一方、国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によると、男性が結婚相手の条件として重視する項目でも「家事・育児の能力」は「人柄」に次いで2位になっています。結婚を望むなら、男女ともに家事・育児能力は身に付けておくべき重要事項のようです。
 男性の回答からは、女性だから家事ができるとは限らないと思っていることが読み取れます。それを裏付けるように、大手料理教室には、結婚を控えた男女が料理を習いに来るケースが増えたと言います。
 定年退職を迎えた夫婦が、離婚しないで別々の生き方を選択する卒婚。夫は田舎暮らしと畑仕事に憧れ、妻は友だちと趣味を優先させるため、別居する夫婦も多いとか。夢の実現のためには、家事能力が必要になります。
 老若男女に等しく家事能力が求められる時代の到来です。

サラダブームを追い風に豆が人気です

 健康志向を追い風に、豆に注目が集まっています。
 追い風は、やはりボウルサラダのブーム。豆は、トッピング具材として人気のアイテムです。豆を加えることで食べ応えが出て、キドニービーンズや枝豆は彩りにも一役買います。大豆や黒豆など和の煮物の印象が強い豆も、サラダのトッピングに使われるようになってイメージが変わりました。特に、野菜や鶏肉などの具材を細かくカットしたチョップドサラダには豆がなじみやすく、大きさもちょうどよかったことが、豆がトッピング具材として急浮上した理由だと思います。
 もうひとつ、最近身近になったのが、ひよこ豆です。ゆでてすりつぶしたものに、練りごま、オリーブオイル、にんにくやスパイスを混ぜ合わせた“フムス”や、同様にゆでてすりつぶしたものに小麦粉とスパイスを混ぜ合わせて団子状にして揚げた“ファラフェル”は、今まで遠い存在だった中近東の料理をいきなり身近にしました。今年2月には、東京・六本木に、ファラフェルを使ったボリュームたっぷりのサンドイッチを販売する「ファラフェル・ブラザーズ」が、4月には、同・新宿に、フムス専門店「ベジ スタンド」が開店しました。
 肉よりも低カロリーで満腹感が味わえるうえ、食物繊維がたっぷりでタンパク質も期待できる豆。今ドキの女性たちが求める要素がいっぱいです。アサイーやチアシードなどのスーパーフードも、ヘンプシードオイルやアボカドオイルなどのコスメオイルも、日本人にはほとんど縁がないものでした。それが、ヘルシー&ビューティの旗印の下、一気に食市場を席捲しました。女性たちの探求心は、今後も、食の未知なる世界を次々に切り拓いていくことでしょう。